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Vol.11 幸せな「ウチ」

 私ごとなんですが、ついこないだ、自分の会社を作りました。理由はいくつかあって、個人的に仕事を抱えすぎ、人に振らないとどうにもならなくなってきたことや、3.11が起きたこと、祖父や愛猫が死んだことで改めて人生を考えたこと。ま、現実的に資本金となる貯金がたまっていたことなどもあったんですが、まぁ30歳を前に一念発起って気持ちもありました。

 登記の前後は、やはり少なからず高揚感がありました。「おれもいよいよ社長かー」なんてにやにやしたりして。でも、一人ベッドに入ると「はて、会社化なんかして本当によかったんだろか??」なんて思うこともありました。というか今でもよく悩みます。実際、これから株式会社化したことによる苦労や大変さが待ってるんでしょうね。

 でも、今、ぼくはとても満足しています。
 一つだけ、はっきりと幸福を感じた瞬間があったから。

 それは、ある日の打ち合わせのことでした。
 関係者数名が集まる中、僕は会社の代表取締役としてそこにいました。初めて自分の会社の名称をいうのも恥ずかしかったし、何もかもが新鮮で、なんだかふわふわした気持ちでした。でもそんな僕なんぞ目もくれず、クールなビジネスマンたちはどんどん話を進めていきます。僕も改めて真剣に会議に臨もうと目を見開き、自分の言葉を発するタイミングをはかっていました。

 数十分後、ある人が僕に言いました。
「で、そちらはどのような形でこのプランに参加しますか?」

 そう聞かれた時、僕は自然と 「はい。ウチの会社はサイト制作、コンテンツ原案、脚本編集など-」
 と答えていました。

 いや、当たり前の返答なんですが、実は、ここに幸福があったんです。
 それは、「ウチ」という単語を使えたってことなんです。

 会社に「ウチ」という言葉を使ったのは、
僕の人生でたぶん、初めてのことでした。

 僕はもともとどこの会社にも入りたくなかったし、会社に入っても所属期間は短めでした。ま、生来どこかの集団に帰属することが嫌いなのでしょうか。今まで「ウチの会社は-」という単語は使ったことがほとんどありませんでした。

 会社は、誰かの所有物です。もちろん、民主的に「みんなのもの」とか言っても、結局は社長のものです。だから僕はどんな会社で働いても「ウチ」という単語より、めんどくさくても「いま俺がいる会社」とか「今お世話になっている会社」とか言っていました。それはつまり、一時的に“ほかの人の所有物”の一部になっている状態、ぼくの仕事人生の中では、通り過ぎるべき場所、“旅の途中”という状態を自分自身で確認するために重要な言葉の使い方だったんです。

 そんなわけで、僕の口から「ウチの会社は-」という単語がするっと出てきたことには本当に自分でも驚いたんです。そして、それに対してかなりの幸福を感じ取れたこと自体にも驚きました。

 同時に、「ああ、おれは意外にさびしかったのかもしれない」
そうも思いました。

 みんな、新卒で就職したら、そこが希望したところであろうとなかろうと、自分が働いている会社のことを「ウチが〜」と言いあって、帰属意識を発生させていくじゃないですか。そんな状態に僕は背を向けつつも、やっぱり、今思うと、それが、うらやましかったのかもしれません。“仕事”という旅の中で、ジプシーを気取りつつも、自分の居場所だと思える場所を見つけたかったのかもしれませんよ。

 そんなわけで、30才を前に、やっと「ウチ」が見つかりました。
 今後もその「ウチ」を継続できるように、誠実な仕事をしていきたいと思います。
 手前味噌&自己完結な話で失礼しました。。。



HP「高橋大樹のマーケット放浪記」
http://hirokitakahashi.com/

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