Vol.12 園子温「恋の罪」
-「肉体を伴う言葉」それを獲得するためにもがく女たち-
僕は1日1本のペースで映画やDVDを観る。
まぁ一言で言えば、「映画が好きだからなのだけれど、死ぬ前に、名作と呼ばれているすべての音楽や映画や小説や漫画やその他もろもろを体に取り込みたい気持ちがあって、それを日々遂行しているという感じである。
だけれども悲しいことに、そういうことをしていると、『映画』に対する緊張がなくなってしまう。恐怖のシーンでも、愛を交わすシーンでもはっきり言って大差なし。「あぁこういう感じね」なんて評論家ぶった嫌な映画視聴者になってしまう。
でも、園子温の映画は違う。
『ソノシオン』と読みますが、皆さんご存知でしょうか?17歳で詩人として「ユリイカ」デビュー。その後、路上パフォーマンス集団「東京ガガガ」を主催するなど。2000年以降には「愛のむきだし」、「冷たい熱帯魚」など、衝撃的であるが商業的な成功も収める作品を量産している。そんな園子温監督の最新作、それが「恋の罪」である。
同作品を観に行ったとき、僕の「映画ボケ」は一気に治った。その一コマ一コマに集中させられ、そして体が緊張し、ため息を強要させられ、終始体の緊張が解けなかった。2時間24分という長編にもかかわらず、僕の視線はスクリーンにしか向かず、終了後、変な形でずっと耐えていたらしい尻の感覚は麻痺していた。
この大変な映画のあらすじを語ろう。
物語は、水野真紀演じる女刑事和子が、渋谷のホテル街「円山町」で異常な殺人が発見されるところから始まる。手や足を切り取られその部分にマネキンのそれがつけられ、ピンクの塗料がぶちまけられている。壁には「城」という謎の文字。
神楽坂恵演じるいずみは、(映画中の表現を使えば)“pure”で神経質な小説家の夫との細かすぎる生活に心を病んでいる。「何かがしたいけど何がしたいのか分からない。無性に何かがしたい」という状況の中で、外に出て働いてみたり、アダルトビデオに出演してみたり、行きずりの男とセックスしたりしてもがいている。
そんな生活の中、いずみはある女と出会う。富樫真演じる美津子である。大学で日本文学を教える美津子は夜、売春婦に変貌する。それも、円山町で最下層の売春婦に、である。そして美津子の母(大方斐紗子演じる志津)もこれまた狂っている。志津は、すでに他界している夫と娘(美津子)を「下品な血筋」となじり、「早く死ねばいいのに」と言ってのける(正直、この志津が劇中もっとも強烈な存在感を放っている…素晴らしい女優さんだと思う)。
話が進んでいくと、美津子はいずみに売春を勧めるようになる。一緒に体を売り、自分の身体で金を獲得する重要性を、言葉通り肉体を通じて理解させようとする。美津子は“形だけの言葉”を嫌い、肉体性を獲得することが最も大切だと説く。そしてその軸をめぐる愛や金や男や女の関係を健康的に笑い飛ばそうとしているように見える。
いよいよいずみは売春宿「魔女っ娘クラブ」で売ろうと決意する。
クラブの電話が鳴る。黒い帽子をかぶった従業員は「魔女っ娘クラブの名にかけてッ!」と声を大にし、いずみに目配せをする。
指定されたホテル。美津子が先に向かい、それを追うようにいずみも向かう。
そこでいずみが目にした地獄とは……そして冒頭、和子が発見したマネキンの死体の真意とは?殺したのは誰なのか?「動機=狂気」はすべての登場人物にある。
映画は最後、以下のような詩で終わる。
『言葉なんかおぼえるんじゃなかった
日本語とほんのすこしの外国語をおぼえたおかげで、
ぼくはあなたの涙のなかに立ちどまる。
ぼくはきみの血のなかにたったひとりで帰ってくる』
(田村隆一「帰途/言葉のない世界」)
こんな映画を作って、いったい誰が得をするのか。全員が狂っていて、救いがないのに。。。とはいえ、映像は鮮烈で強烈でリキッドで、それでいて美しく、観客を飽きさせないスピード感もある。「愛のむきだし」「冷たい熱帯魚」と比較しても、傑作だと思う。
園子温、素晴らしい監督である。
次回作(すでに完成済み)は、あの稲中の古谷実氏原作「ヒミズ」である。親に愛されず、親を愛せず、『普通』を普通以上にのぞむ異常な子供たちをどのように描くのか。原作も大変面白いのでぜひ読んでいただきたい。
http://himizu.gaga.ne.jp/
1月14日公開、誰か一緒に観にいきませんか?
高橋 大樹
HP「高橋大樹のマーケット放浪記」
http://hirokitakahashi.com/
連載(毎日更新)commodity-board.com
https://commodity-board.com/2011/05/post-6345.html
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