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井上あきら習作篇 その四十 当季雑詠


「菊酒(その二)」
新涼のこれより備前赤瓦


新涼や名人芸の出前ぶり


秋すでに潜んでをりし爪の先


燭台に揺るゝ灯秋思かな


こゝろからなりたきものに秋の雲


どぶ川の水面澄みたる朝かな


菊酒や会の幹事を仕る


菊膾嬉しき膳となりにけり


虫の声とぎれし闇のあと深き




<字句補足説明>
【本稿の季語の説明については その多くを角川書店編
「第三版俳句歳時記 夏の部 秋の部」によっています】

今日八日は二十四節季の白露(はくろ)野草に白露が宿りはじめる
今回の主題は「菊酒」(きくざけ)その十八に次いで二度目
明日 九月九日は五節句の最後の重陽(ちゃうやう)菊の節句
九という数字を陽数とした中国の陰陽術による節句
酒に菊花を浸した菊酒を飲み 健康長寿を祝う慣わし
女の子の桃の節句(三月三日)
男の子の端午の節句(五月五日)にたいして
大人の菊の節句(九月九日)
「新涼」(しんりやう)が秋の季語 二句
秋の初めの涼気 秋涼
<一>列車からでも車上からでも 
備前(岡山県)に入ったことは 屋根の瓦の色でわかる
赤瓦とは 備前焼の瓦のこと
普通の黒瓦に比べて 吸水率が低く冬季に割れにくい
昔の藩校 閑谷学校の大きな屋根の瓦に代表される
赤といっても単純な赤ではない 赤っぽい色
むしろ 鉄錆色 黄土色というほうが似つかわしい
日本語の色名は じつに繊細できめ細かく名調子
しかし 赤と青に関しては なぜか大雑把な面が
この赤には柿色から血の色までが含まれる
青にいたってはいろんな緑も紫に近い藍も含まれる
交通信号灯の緑を青というがごとし
<二>夏の間 久しく見かけなかった
出前の名人芸を見た
長い岡持ちを颯爽と運ぶ姿には いつも感心させられる
あれは寿司屋だったか
一瞬にして新涼の風とともに消え去った

「秋」(あき)がそのものずばり秋の季語 
季節の移ろいは 
じつに巧妙に仕組まれている
次の季節の種子は いつもすでに潜んでいる
ことに秋の場合は 次の歌に的確に詠まれている
<秋来ぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞおどろかれぬる>(古今集)
藤原敏行(ふじわらのとしゆき)三十六歌仙の一人
その風を 僕の場合は左手の爪先で感じる

「秋思」(しうし)が秋の季語
春には春愁(しゅんしう)という季語
秋になって物思いに耽ること
家の中で燭台の置かれる所はかなり限られている
仏壇 神棚のお灯明(とうみやう)
化野(あだしの)念仏寺の「千灯供養」(8月23 24日)
春日大社の万燈楼のような恒例行事(8月14 15日)
電気のように安定した照明と異なり
蝋燭の灯(ともしび)は揺らめき 思いと響きあって
秋のあ・は・れを一層かきたてる 

「秋の雲」(あきのくも)が秋の季語
禅語「白雲自去来」(はくうんおのずからきょらいす)
心に思い浮ぶこと(雲)に対して何もわだかまっていない境地
作家で禅僧の玄侑宗久(1956年〜)さんの一文で学んだ
<ゆく秋の大和の国の薬師寺の搭の上なるひとひらの雲>(佐々木信綱)
という歌にかつて触発されたこともある

「水澄む」(みずすむ)が秋の季語
ここでは<水面(みなも)澄む>
大阪の梅田から神戸方面に向かうとき
まず大きな淀川を渡る 次いで 最も汚染された神崎川を渡る
そのどぶ川の水面までもが澄んでいる 朝(あした)ならなおさら

「菊酒」(きくざけ)が秋の季語 
冒頭の菊酒の説明をご参照あれ
この句 会の幹事とは「菊酒の会」の幹事を仕る(つかまつる)
半世紀ぶりに中学校時代の同窓会をやろうということで
みんな歳も歳だし たんなる同窓会では芸がない
年に一回 九月九日の重陽の日に「菊酒の会」にしようと
提案したのがいけなかった 
「じゃあお前が幹事をやれ」とお鉢が回ってきた

「菊膾」(きくなます)が秋の季語
膾(なます)は薄く細くした魚の切身を酢に浸したもの
大根・人参を細かく刻み 三杯酢などで和えた料理
それに菊の花弁を混ぜて「菊膾」
菊酒のあて(酒肴)にもってこい
猛暑日を生き抜いて 重陽の節句を祝う重ね重ねの歓びの膳

「虫の声」(むしのこゑ)が秋の季語
虫の声が登場すると俳句もいよいよ佳境
ふっと声が途切れて距離感がなくなる覚束なさ
あるのは闇の底しれぬ深さだけ そこに「あ・は・れ」が
<おまけ>100年前の歌
「虫の声」尋常小学校唱歌 1910年(明治43年)
1.あれ松虫が鳴いている ちんちろちんちろ ちんちろりん
あれ鈴虫も鳴き出した りんりんりん りいんりん
秋の夜長を鳴き通す ああおもしろい虫の声
(271句目)


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