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井上あきら習作篇 その三十一 当季雑詠


「桜」
夜桜を抜る「嵐電」灯ををとし


来ぬ人と来られぬ人や花の宴


重力のあるを忘れし桜かな


山桜遠近法の点に立つ

   
裕福な人の桜の通り抜け


聖霊会舞楽のあとの夕桜


惜しみなく遊び草臥る花二十日




<字句補足説明>
【本稿の季語の説明については その多くを角川書店編
「第三版俳句歳時記 春の部」によっています】
【今回は全篇 春の季語である「桜」にまつわる句を集録
各句毎の季語説明は簡略化しています】

芭蕉の<さまざまの事おもひ出す桜哉>には及ばぬものなれど

「夜桜」(よざくら)が春の季語 桜の傍題
2000年から始まった京福電鉄北野線(嵐電)「夜桜電車」
鳴滝〜宇多野駅間の沿線約200mのソメイヨシノをライトアップ 
運行は4月6日で終わったが
漆黒の山間部を桜のトンネルだけが映える
車内灯を消せば そこは幻想的な異空間

「花」が春の季語
「花」といえば平安時代以降 桜の花をさすのが一般的
古今集の<久方の光のどけき春の日にしづ心なく花の散るらん>の花は桜
その他 花を冠して桜に通わせた言葉は多い
花の雨 花の雲 花便り 花の宿・・・
ここでは「花の宴」を用いている
宴は楽しいものだが 来ない人のことが気がかり
来たくない人はともかく 来たくても来られない人
のことが案じられる 人それぞれの事情
体調が優れない 手元不如意・・・
そんなことも頭を掠めながら
生きてこの世におればこそ集えた面々で邂逅を祝して
楽しくやるのが宴「花の宴」ならなおさら

「桜」がずばり春の季語
桜ばかりか神(天然)の造化物には
重力があることを忘れたかのような
(あるいは無視したかのような)
満開の桜の花がまさにそうだ
まるで浮遊するかのように枝にある
春の季語<花の雲>と表現すべきかとも思う
芭蕉に<花の雲鐘は上野か浅草か>がある
この鐘は江戸の時鐘(じしょう)時刻を知らせる鐘

続いては「山桜」が春の季語
遠近法とは平面上に奥行きのある空間を立体的に表現する図法
透視図法 消点(しょうてん)を定めてそこに図形を収斂させる
遠くのものは小さく 近くのものは大きく
視覚が納得するように描くことができる
図法自体の歴史は古く ルネッサンスの頃に確立
この句 一本の山桜をまるで消点にして
周景がそこに向かって収斂しているところ
ところで 山桜が危機に瀕していると聞く
下千本 中千本 上千本 奥千本と呼ばれ
約50haに約3万本とされる
吉野山のヤマザクラの群落の一部が
樹盛の衰えなどで危機に陥っている
若木が枯れる現象も見られ 「このままでは
1300年来の貴重な歴史的景観が消える」と
地元の「吉野山保勝会」が保護活動に乗り出した
(2008年9月3日の讀賣新聞の記事を参照)
この句 山桜に焦点(消点)を当てて思いを喚起した

「桜」が春の季語
大阪の春の風物詩「造幣局の桜の通り抜け」
「通り抜け」だけでも春の季語にならないかとも
思うが まだ正式には季語になっていない
始まったのは明治16年(1883年)127年前
今年は4月14日から一週間の開催
遅咲きの八重桜 120品種約350本の豪華な通り抜け
しかも今も貨幣(硬貨)を実際に造っている造幣局だけに
通り抜けた後は裕福になった気がする
私の住まいから徒歩圏にあるので毎年通り抜けている
懐は一向に裕福にはならないが 心だけでも裕福にと俳句に勤しんでいる

「夕桜」(ゆふざくら)が春の季語
夕方にながめる桜
「聖霊会」(しやうりやうゑ)は聖徳太子の命日(御忌)の法会
もとは旧暦2月22日に太子ゆかりの寺で
舞楽などを伴い行われた
今は四天王寺では4月22日
法隆寺は3月22日 広隆寺は8月22日
仏教が極彩色を纏って百済経由で工人らとともに伝来したのが六世紀中葉
六世紀末には 聖徳太子が難波津に四天王寺を建立
のちの法隆寺建立とともに太子による仏教立国宣言の政治的実践であった
供養として演じられた無言仮面舞踊劇・伎楽が
器楽によって舞う舞楽に収斂され 千数百年
いまも四天王寺舞楽伝承団体・雅亮会によって
年に三度奉納されている(国の重要無形文化財)
なかでも聖霊会は最も大事な法要

「花二十日」の「花」が春の季語
花二十日(はなはつか)は蕾から開花そして落花する期間の日数
概ね 七 七 七とされる
三月に入ると気象情報会社が開花予想を競い
開花予想を煽りたてる
今年は当たったのか外れたのか
ともかくも 今 花盛り
掲載のころには 惜しみなき落花のフィナ−レ
<惜しみなきフィナ−レすなはち花二十日>という検討もした
草臥る(くたびる)疲れて草に臥す意の当て字(広辞苑)
(200句目)


井上 明関連サイトリンク
暮らし方研究会
http://www.kurashikata.gr.jp

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