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井上あきら習作篇 その二十二 当季雑詠


「七五三」
金四百メロンの横のアケビの実


団栗には罪なき不調ヤジロベエ


蟋蟀を黒猫が捕るその刹那


立冬や自販機といふ常夜灯


七五三神社の前に写真館


神農祭来年こそと買ふ張子


日向ぼこ雀のやうな園児かな




<字句補足説明>
「アケビ」(通草)が秋の季語 「アケビの実」
ス−パ−の果物売り場で 一つ四百円で売られているアケビを見た
置き場に困ったのか 高級メロンの横にパックされて置かれていた
四百円が高いのか安いのかも判らないが 帰りには売れていた
淡紫色の実は都会の果物売り場に並ぶことなど想像だにしなかっただろう
四百円で買うのをためらった私
すぐに買った粋な人
この句 悲喜交々(ひきこもごも)の心境を滲ませている

「団栗」(どんぐり)が秋の季語
広辞苑では(トチグリ(橡栗)の転か)カシやクヌギ・ナラなどの果実の俗称
と説明されている このドングリから実生して樹木になる
この句 ドングリでヤジロベエを作ったのだが 上手くバランスがとれない
しかし これはドングリのせいではなく 
作り手の不手際と正直に白状しているところ

「蟋蟀」(こおろぎ)が秋の季語
たしかに野生化した猫の捕獲動作は素早い しかし 
私には蟋蟀が逃げなかったと見えた 
秋の終わりに存念を定めた 小さな生き物の見事な最期
ここまでが俳句上の秋
<紅葉かつ散る>は秋の季語だが 
<枯葉><落葉>になり<裸木><枯木>になるともう冬の季語になる 
<十一月(霜月)>はすでに冬の季語

「立冬」(りつとう)が冬の季語  ここから季語は冬の部に入ります
今年は11月7日が立冬 
温暖化のせいで 都会では冬の実感は未だ未だですが あちこちで雪便りも 
自動販売機の総数は未調査ながら 目にしない日はない
日本コカコ−ラ社の1社のみのデ−タでは
1日に5000万人が同社の製品を買う
その内 4割の2000万人が自販機で買う(全人口のざっと2割)
ス−パ− コンビニの1600万人を抜いて断トツ
俳句も自販機を無視できない 自販機を詠みこめないと現代俳句の明日はない
常夜灯(じやうやとう)は社寺の参道に一晩中灯しておく灯りのこと
24時間稼働している自販機は まさに現代の常夜灯といえる
この句 夜が早くなってくる立冬と列をなして並ぶ自販機との取り合わせの句

「七五三」(しちごさん)が冬の季語 11月15日
神社の門前には必ずといっていいほど 記念写真を撮る写真館がある
<お詣りの前に先ず写真>という看板も見かけられる
着くずれしないうちに撮っておこうというのだが はたしていかがなものか
この句 <神社の前に写真館が在る>という意味と
<お詣りの前に>という意味を重ねている 俳句としてはいささか邪道・・・

「神農祭」(しんのうさい)が冬の季語 「神農さん」
製薬会社などが軒を並べる大阪 道修町(どしょうまち)の
少彦名神社(すくなひこなじんじゃ)では11月22日・23日に行う 
一年の最後の祭り
大阪では親しみをこめて「神農はん」と呼んでいる
ビルの谷間の小さな境内に多くの人があふれる
堺筋から御堂筋まで道修町通に出店が並ぶ
私の住むところから徒歩圏にあるので 毎年お参りをする
五枚笹につけた張り子の虎のお守りが欠かせない
後藤夜半に<神農の虎ほうほうと愛でらるる>
後藤比奈夫に<神農の笹の重さの伝はりぬ>
などがある
カ−ネルサンダ−スよりはるかにご利益があるはず
ことに来年は寅年ということもあって 
タイガ−スファンの多い大阪は 私以外はやくも盛り上がっている
この句 タイガ−スへのエ−ルの句でもある

「日向ぼこ」(ひなたぼこ)が冬の季語 日向ぼつこ 日向ぼこり
冬になると暖かい日向が恋しい 
小さな園児らが日だまりに一列に並んでいる様子は 
まるで雀が電線に並んでいるようにも見えて愛らしいもの
*
今回までの掲載句数は150句

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