茶柱横町 茶柱横町入口へ
 
 
プロフィールを見る
前を見る 次を見る

井上あきら習作篇 その十七 当季雑詠


「秋茜」
新涼や茶柱ひとつ立ちゐたり


5万分の一の白地図秋茜


音もなく翅の耀ろひ秋茜


菊の香や奈良のまほらの日吉館


朝顔が小さきビルを覆ひけり


鶴橋に高き煙突白槿


仙崎の優しき詩人鰯雲




<字句補足説明>
「新涼」(しんりゃう)が秋の季語 秋涼とも
茶柱句会発足の奇縁となった一句  茶柱が立つのは吉兆
茶柱横町の谷口純平さんに初めてメ−ルしたとき 挨拶として送った句
かれこれ二年くらい前のことになるだろうか

「秋茜」(あきあかね)が秋の季語 いわゆる赤トンボ
5万分の一の白地図を広げているところに寄って来た 好奇心ある赤トンボ
秋の野山に連れ立つところ
腹部が真っ赤なのは老熟した雄

同じく「秋茜」が秋の季語 
未熟な人工物と違い 神の創り賜うた物は音もなく空中浮遊できる
翅(はね)を秋の日差しに耀(かがや)かせながら
秋トンボが群れて浮いている光景には既視感がある

  「菊の香」が秋の季語
<菊の香や奈良には古き仏たち>は芭蕉の句として つとに有名
「まほら」は漢字にすると「真秀」
これに漠然と場所を示す接尾語「ラ」をつけたもの
「優れた場所」「良い所」という意味
奈良につく「まほろば」もこの一種
日吉館は老朽化で1995年廃業された
いまはもう伝説の旅館
<1914年(大正3年)創業>文人墨客 貧乏学生の定宿として知られ
看板の揮毫は歌人の会津八一による
奈良国立博物館(登大路町)に面してあった
安い宿賃で夕食には当時ご馳走のすき焼きを出したおばちゃん
(故田村キヨノさん)の心意気がいまも語り草
まさに「まほら」というに値する旅館だった
私は大阪住まいなので宿泊したことはなかった

「朝顔」が秋の季語  夏に咲く花のイメ−ジだが季語では秋
朝顔といえば清楚な日本的イメ−ジだが
最近は南米原産種もあり 旺盛な繁殖力を目にすることも
三階建てくらいのビルなら一面をやすやすと覆ってしまう

「白槿」(しろむくげ)が秋の季語 白でなくても槿だけで秋の季語
鶴橋は大阪にあって 日本最古で最大のコ−リアンタウン
街の中心部に唐突に高い煙突がある 聞けば火葬場とか
白槿を手向け一句とした
「槿」(むくげ)は大韓民国の国花

「鰯雲」(いわしぐも)が秋の季語
仙崎は現山口県長門市仙崎 
そこの優しき詩人といえば童謡詩人金子みすゞ(1903〜1930)
この句は 見えない名もなきものへの優しい眼差しを忘れない
金子みすゞへのオマ−ジュ
「大漁」魚の弔いという詩では
<大羽鰯の大漁で 浜は祭りのようだけど
海の中では何万の鰯の弔い するだろう>と詠われている
「星とたんぽぽ」という詩では<昼間の見えない星>への心の寄せ方とともに
他者への思いやりの心を大事に<見えぬものでもあるんだよ>と諭す
「鈴と小鳥とそれから私」では<みんな違ってみんないい>
と存在する全てのものの価値を対等に認め
違っていることは卑下することではない 個性なのだと諭す

井上 明関連サイトリンク
暮らし方研究会
http://www.kurashikata.gr.jp

第60回
茶柱ツイッタ−句会

第59回
茶柱ツイッタ−句会

第58回
茶柱ツイッタ−句会

バックナンバーINDEX
前を見る 次を見る
| 著作権について | このページのトップへ | 茶柱横町入口へ |