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井上あきら習作篇 その十六 当季雑詠


「晩夏光」
まつさらの蝉の躯や畤の朝


その訳を知れば切なし蝉しぐれ


八月が昂然として過ぎにけり


かなかなや深山の上の迷ひ星


蜩や鋼索軌道曳きゐたり


地下鉄のいつしか駈くる晩夏光


晩夏光ペルシャの壺の破片かな




<字句補足説明>
「蝉」が夏の季語
「畤」(には)は祭りの庭 神霊がじっと留まるところという意味
古代中国の五帝(東 西 南 北 中央の神)を祀る祭場を
五畤(ごじ)といい 秦 漢代に都の近くに設けた
地中六年 地上七日の蝉の真新しい躯(むくろ)が
朝の寺域の庭に転がっている 生命の無常を感じさせられる
その体はまだ樹上にあれば鳥に 樹下にあれば蟻に献体される

「蝉」が夏の季語
「その訳」とは動物行動学の泰斗 日高敏隆先生によると
「子孫を残すために オスがメスを呼ぶ叫び声」オスとは切なきものよ と思う
地上七日の短い生命を生殖のためだけに費やして終える
このことを知れば「蝉しぐれ」がこれまでと違って聞こえるかも
 
「八月」が秋の季語 厳密にいえば七日の立秋までは夏 以降が秋となる
季語の上での区分と実感が伴い難い時期
季感と実感の難しいものに「朝顔」があり秋の季語となる
「八月」は日本にとって暑く 重く 長い月
八月六日 広島平和記念日(原爆忌)九日 長崎原爆の日
この二回の原爆忌と十五日 終戦記念日(全国戦没者追悼式)と続く
  一連の戦争関連日とは別に日本独自の 七日は立秋 十五日は月遅れの盆
十六日には盆の送り火(大文字など)各地での夏祭り(秋祭り)
青森でのねぷた祭 山形花笠祭 秋田竿灯
高知のよさこい祭 徳島の阿波踊など

「かなかな」が秋の季語
蜩(ひぐらし)のこと その金属的な澄んだ鳴き声からつけられた別称
「迷ひ星」は惑星のこと この句では金星(宵の明星)が
山の上にかかったところ 関西でも六甲山の中腹より上で聞こえることもある

「蜩」が秋の季語
「鋼索軌道」(かうさくきだう)はケ−ブルカ−のこと
夕方山を登るとき 蜩にケ−ブルカ−が曳き上げているかのように感じたところ もうすっかり山は秋の風情

「晩夏光」は夏の季語  初秋と夏の末との端境期
「晩夏」は夏の末のこと 夏終わるの感慨をこめて
大阪の地下鉄 なかでも中央線は大阪市内と大阪港の人工島を結ぶ幹線
地下と海底トンネルと高架を走る 地下鉄なのに気がつけが高架を走っていたり
ドラマティック この句 うとうとしていたらいつのまにか
晩夏光の中を走っていたというもの
 
つづいて「晩夏光」
今年 平城京の西にある大和 西大寺の旧境内から海のシルクロ−ド経由の
イスラムの壺(ササン朝ペルシャの陶器の流れをくむ)の破片が発見された
そのトルコブル−に晩夏光をみた


<お知らせ>
これまでタイトルに「井上あきら句作篇」と表記していましたが
今回から「井上あきら習作篇」と改めました
習作だから 本音でいろんな試みをしていきたいと考えています

井上 明関連サイトリンク
暮らし方研究会
http://www.kurashikata.gr.jp

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