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井上あきら句作篇 その十二 当季雑詠


「夏の月」
男には男の時間梅雨入かな


禅堂の深き廂や梅雨さなか


夏の月百葉箱の白きこと


夏の月むかし金髪湿度計


モノクロ−ムの仏蘭西映画夏の月


A4に数式ひとつ夏の月




<字句補足説明>
「梅雨入」(ついり)が夏の季語 入梅 梅雨に入ること
都市生活者には鬱陶しい雨がつづく梅雨も 農作物
ことに米作には欠かせない恵みの雨
日本の都市化が急速に進む頃 池内淳子主演で「梅雨のあとさき」という
松竹か大映の映画があった 映画そのものは忘れたけれど 
この「梅雨のあとさき」という題名だけが妙に印象に残った
「あとさき」でいえば 「梅雨入」は「さき」のほう
この映画では女が主役 「男には男の時間」という措辞は
この映画の女を相当に意識しての男の捨て台詞 言外に
「女には女の時間」とも言っている

「梅雨」(つゆ)が夏の季語 「さなか」は「梅雨の最中」
禅堂は坐禅をするためのお堂 坐禅の途中に経行(きんひん)という
身体を動かす一定の時間があり 禅室の周囲に廻らされた
幅一間ほどの濡れ縁をぐるぐる廻る
廂はさらに半間ほど出ているので一間半(三米弱)程の深さになる
梅雨も最盛期になって 禅堂の深い廂もすっぽりと包まれている

「夏の月」(なつのつき)が夏の季語
「月」だけであれば秋が最も美しいとされ 秋の季語
「夏の月」と表現して初めて夏の季語となる
その季感は 暑苦しい昼間に較べて涼しげな月の様子を表すもの
百葉箱(ひゃくえふさう)は気象観測用の機器を入れた白ペンキ塗り鎧戸の箱 
白い夏の月が白い百葉箱を照らしていかにも涼しげ

ひきつづき「夏の月」が夏の季語
最近では観測機器の多くがデジタル化され高性能になったが
ついこの間までは 毛髪湿度計があった
髪の毛の伸び縮みで湿度を測るという代物
うろ覚えながら 金髪しかも処女の髪の毛が良いと
まことしやかに教えられたように思う

つづいても「夏の月」が夏の季語
この仏蘭西映画はルネ・クル−ル監督の原題「Quarze Jullet」
直訳はただ「七月十四日」1789年7月14日のフランス革命を取り扱った作品
日本上映に際し「巴里(パリ)祭」と邦題がつけられた
爾来 日本ではフランスの革命記念日そっちのけで「巴里祭」と称して
時節柄 暑気払いのダシにされてしまった
(巷の酒場で不似合いなシャンソンを聴かされる我慢がいるが)
このモノクロ−ムの映画の印象がいかにも涼しげで夏の月と取り合わせた

またまた「夏の月」が夏の季語
A4版の用紙にただ一行の数式(真理) 余白がいかにも涼しげ
E=mc2の式ならばなおさら 夏の月との取り合わせの句

井上 明関連サイトリンク
暮らし方研究会
http://www.kurashikata.gr.jp

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