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井上あきら句作篇 その十 当季雑詠


「葉桜」
あをあをと顕(あ)るゝ街路図青嵐


蹲踞や吾唯足るを知る青葉


葉桜や峠を越えて當麻まで


葉桜を天満橋まで歩きけり


初鰹きつぱり藁でたゝきかな


卯波立つ港漲りつめ艦来る


朝掘りの筍を見て禅堂へ


峯入りの先達は知己紐怩たる




<字句補足説明>
「青嵐」(おをあらし)が(初)夏の季語
ビルの窓から街を眺めていると 街路樹の若葉がぐんぐん存在感を増してくる
まるで色彩を無くしていた街の地図 それも街路の地図が浮びだすようだ
その若葉がこの時期特有の強い風(青嵐)に吹かれて揺れている

「青葉」(あをば)が(初)夏の季語 若葉よりやや闌(た)けた様子
  臨済宗竜安寺の蹲踞(つくばひ) 口を中心に偏と旁を上下左右にあしらって「吾唯足知」(われただたるをしる)という仏教の「知足」の教えが
デザインされている その口の部分の水に青葉が映っているところ

「葉桜」(はざくら)が(初)夏の季語 花が散って若葉が出始めた頃の桜
難波宮と飛鳥の京を結ぶ日本最古の官道 竹内街道(たけのうちかいどう)は
二上山の南麓(竹内峠)を通る 河内から大和へ入るには最適ルート
街道沿いには古社名刹が並ぶ 峠の河内側(上ノ太子)には聖徳太子の御廟のある
叡福寺 峠を越えたら大和の當麻(たいま)中将姫伝説で知られる當麻寺
葉桜の頃は桜の匂い(桜餅の匂い)に誘われて 叡福寺の向かいにある代々の菩提寺 西方院から峠越えをした

「葉桜」(はざくら)が(初)夏の季語
こちらは天神橋から天満橋までの葉桜並木をただ歩いたというだけの句

「初鰹」(はつがつを)が(初)夏の季語
初鰹が手に入ったら あれこれ迷わずきっぱりと藁で「たゝき」にしよう
厚切りにして冷やさずに食べるのが王道
初鰹の句の代表格には山口素堂<目には青菜山郭公(ほととぎす)初鰹>

「卯波」(うなみ)が夏の季語
卯月(陰暦四月)のころに立つ川や海の波のこと 陰暦五月のころの波は皐月波という 大阪港は商港なので 普段軍艦は見かけない 年に何回か軍艦が入港するとこころなしか港の雰囲気が漲(は)りつめて見える
「卯波」のエピソ−ド 俳人 鈴木真砂女(1906〜2006)は銀座で「卯波」という小料理店を経営 <あるときは船より高き卯波かな><海女一人に桶一つ浮く卯波かな><戒名は真砂女でよろし紫木蓮>などの句を残した 句集にも「卯波」がある 

「筍」(たけのこ)が(初)夏の季語
筍は全国で栽培されているので それぞれご贔屓があることでしょう
関西に長く暮らす私には京都の西にある長岡京の筍
それも朝掘りの小振りのものに こよなく愛着がある
長岡京にある「長岡禅塾」に参禅していた折
筍の時期にだけ朝掘りの筍が並べられる仕舞屋(しもたや)の前をよく通った
帰るころには売り切れていて残念な思いをしたことも度々
十年前 不摂生で脳梗塞を発症したのもここ そのまま近くの病院に緊急入院

「峯入り」(みねいり)が(晩)春の季語
紀伊山地の大峰山に修行のために入山すること 春季に熊野側からの入山を「順の峰」(天台宗 聖護院派)秋季に吉野側からの入山を「逆の峰」(真言宗醍醐寺の当山派)と呼ぶ 実際には夏季が中心なので 夏の部に掲載
先達(せんだつ)は修験者の先導者 知己(ちき)は昔からよく知っている親友 誇らしい半面 紐怩(ぢくぢ)内心恥じ入るような複雑な気持ちだ
<お断り>
5月8日掲載予定の作
編集の都合により 掲載が22日になり 若干 季感に差異がみられます



井上あきら句作篇 その十一 当季雑詠


「香水」
香水やしばし無言の昇降機


氷水一杯旨しカレ−ライス


残像の四角い海月メ−ル果つ




<字句補足説明>
「香水」(かうすい)が夏の季語
香水の句は寡聞にして お目にかからない
俳人 黛まどかさんの<香水の封切つて今日オフピ−ク>が出色
1999年の作 営団地下鉄のコマ−シャル・コピ−として実際に使用された
と平山雄一さん(わらかみ句会代表)の一文で学んだ
曰く「最も重要なのは主張する詩情の新鮮さ」心したい

「氷水」(こほりみづ)が夏の季語
カレ−ショップでは脇役の主役
暑いときに熱くて辛いカレ−ライスはおつなもの
主役が熱くて辛いほど出番が増える
いつしか「氷水が旨い」と主役を越えている

「海月」(くらげ)が夏の季語
「四角い海月」は暗がりで見る携帯電話の残像
メ−ルの内容によっては残酷な残像であることも

井上 明関連サイトリンク
暮らし方研究会
http://www.kurashikata.gr.jp

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