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井上あきら句作篇 その八 当季雑詠


「薄墨桜」
春風や浄満さんと日向琵琶


黄沙降る玄奘訪ふて西の京


花冷やナイトクル−ズの飛行船


花の塵解なきジグソ−パズルかな


戦せぬ城こそよけれ桜映へ


大川の対岸でする花見かな
                                                        
媼待つ薄墨枝垂れ桜かな




<字句補足説明>
「春風」が春の季語
「浄満さん」(じょうまんさん)は第一部 第13回でもご紹介した
宮崎県にある浄満寺の住職で全盲の永田法順師
日向琵琶の弾き語りをしながら現在も檀家巡りをし
地元の人からは「浄満さん」と親しみを込めて呼ばれている
日向琵琶の音は ヨーロッパ中世のチェンバロの音に似て
バロック音楽のプリマベ−ラ(春)に通じる耳にこそばゆい調べ
春風に吹かれて 浄満さんと親しまれる法順さんが琵琶を弾き語りしながら
田畑の周りを歩いているところ

「黄沙」(こうさ)が春の季語
「黄沙」は普通「黄砂」とも表記するが
ここでは玄奘に敬畏を払って「沙門」の「沙」を用いた
二月から五月にかけて西域のタクラマカン砂漠辺りの砂が偏西風に乗って
日本に運ばれてくる春の現象 春霞の正体でもある 
「霾」と書いて(つちふる)とか「霾ぐもり」(よなぐもり)という表現もある
西域から西の京まで 時空を超えて玄奘をはるばる訪ねて来た様子
「玄奘」(げんじょう)は西遊記でもお馴染みの玄奘三蔵法師のこと
薬師寺の寺域に 玄奘三蔵院伽藍があり
毎年五月五日に玄奘三蔵会大祭が執り行われている
安田暎胤管主は 「玄奘は 自利自他行せし 菩薩なり
身命を賭して 求法(自利の行)のため天竺に向かい 目的を達成し
帰国後は仏の教えを正しく伝えるために翻訳業(利他の行)に専念された」と
述べておられる

「花冷」(はなびえ)が春の季語
桜が咲いた頃 一時的に寒くなることがある それを「花冷」という
春の一瞬のためらいのような含羞がある
夜桜見物の飛行船のナイトクル−ズとの取り合わせ
これがヘリコプタ−だと音がうるさくて興醒め 

「花の塵」(はなのちり)が春の季語 
桜は咲いたらすぐに散り始める 昔の言葉に「花二十日」というのがある
蕾で七日 咲いて七日 散って七日を愛でるというのだ 
出来合いのジグソ−パズルには どんなに複雑でも必ず正解がある しかし
花の塵は白紙の花弁の片々 はなから正解などあるはずがない
 
「桜映へ」(さくらばえ)が春の季語
晴天の空と日差しを受けた満開の桜の光景
城は戦のために造られた空間だが 堀に迫り出したたわわな枝や
石垣の高低差による変化に富んだ景観が現れる

「花見」(はなみ)が春の代表的な季語
大阪の大川は淀川から毛馬(大阪市都島区毛馬町)で引き込まれた運河
毛馬といえば 江戸俳諧の中興の祖 蕪村が生まれた 摂津国東成郡毛馬村
蕪村では<春の海終日(ひねもす)のたりのたり哉>がつとに有名
もう一句揚げると<菜の花や月は東に日は西に>がこの時期
大川沿いには「桜の通り抜け」(今年は4月15日〜21日)で有名な造幣局
その時期は縁日のように多くの出店と人混みで大混雑 その喧騒を逃れ
大川の対岸(東側)から 蕪村の気分で悠然と花見としゃれたところ

「枝垂れ桜」が春の季語
薄墨(うすずみ)は墨染め(墨汁色の黒)を相当薄めて 濃淡の最淡
薄墨桜となれば 水墨画のもっとも薄い墨の色に
ほんのりと桜色が感じられる程度
それも桜と思うから桜色を見てしまうだけ 憂いのある深い白さ
そんな薄墨枝垂れ桜が媼(をうな)を待つ翁(おきな)のように枝垂れている
私はかつて薬師寺の写経所の前のただ一本を翁のように見た

<俳句の構造 其の三>
俳句を表記するときの「仮名遣い」の方法について
「俳句あるふぁ増刊号」全国俳句結社ガイド(約290数社)を参照して 
ざっとした傾向をみたところ 「旧仮名遣い」派が圧倒的に多数 「自由」派もかなりみられた 「新仮名遣い」派は少数ながらみかけられる
当茶柱句会では「旧仮名遣い」で統一しています(混在だけは避けるべき)
文体については 口語ではなく文語のほうが俳句としてしっくりするので
私は「文語で旧かなづかい」に表現を統一しています
<訂正とお詫び>
前回 「その七」の句 詩のやうな言い訳メイル菜種梅雨
「言い訳」の表記は「言ひ訳」を正としますので お詫びし訂正します

井上 明関連サイトリンク
暮らし方研究会
http://www.kurashikata.gr.jp

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