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井上あきら句作篇 その九 当季雑詠


「風光る」
万愚節と呼ばれしころの三鬼の訃


花びらの皺もゆかしき山桜


奈迩波ツに咲くや桜の通り抜


風光る卑弥呼の宮であれかしと


うち震ふ古皮質とあり潮干潟


揚げ雲雀人工島へ何処より


春昼のぷくぷかぴかり舟溜り


うらうらへうららのららのらとなりぬ




<字句補足説明>
「万愚節」(まんぐせつ)が春の季語
オ−ル・フ−ルズ・デイ 訳して「万愚節」
エイプリル・フ−ル 訳して「四月馬鹿」現代ではこちらの方が一般的か
三鬼は山口誓子と「天狼」を支えた俳人 西東三鬼(1900〜1962)のこと
1962年4月1日に逝去
石田波郷はすかさず<万愚節半日あまし三鬼逝く>と詠んで悼んだ
渡辺白泉は遅れて<万愚節明けて三鬼の死を報ず>と詠んで悼んだ
この項 月刊俳句界編集長 清水哲男 増殖する俳句歳時記 参照
http://zouhai.com/
万愚節 捨て難し

「山桜」(やまざくら)が春の季語
咲きたての花びらはしわくちゃだ
ソメイヨシノより山桜のほうが 一層 翳りがある
それが初々しくもゆかしい

「桜」が春の季語
残念ながら「通り抜け」は正式な季語に認められていない
実際的にも「桜の通り抜け」が正式名称
季語には「絶滅寸前季語辞典」(東京堂出版 夏井いつき著)に
取り上げられているようにほとんど用いられず死語になった
「絶滅寸前季語」があったり 
俳人 坪内稔典さんが春の季語に推す「あんぱん」のように
何かのきっかけで季語に認められる可能性のある
「季語予備軍」(あきら)がある
季語を学びたい方には NPO法人「季語と歳時記の会」がお奨め
造幣局の「桜の通り抜け」は1883年(明治16年)に
一般公開して以来120余年の歴史を刻む 大阪の春の風物詩
全長約560mに遅咲きの八重桜126種類 348本の丹精の桜道
後戻りできない一本道
「奈迩波ツ」(なにはつ)は佐久夜木花比女(さくやこのはなひめ)に因み
万葉仮名を拝借 

「風光る」(かぜひかる)が春の季語
春も深まり日差しも強くなって 光り輝く頃 
春の喜びや希望を託したくなるような風の様子
先だって 奈良県の桜井で邪馬台国畿内説を確定する大発見(?)があった
かねてより纏向遺跡(まきむくいせき)にあって卑弥呼の墓と比定されていた
箸墓(はしはか)古墳の近傍から 3世紀前半から
中頃(〜248年)とみられる柵に囲まれて整然と並ぶ建物跡が現れた 
魏志倭人伝の邪馬台国か?まだ?つきながら そうであって欲しいと一句
時まさに「風光る」頃 世紀の大発見であることに期待が膨らむばかり
九州説派の方々にはまだ異論もあろうが 私は昔から畿内説派
  
「潮干潟」(しほひがた)が春の季語
  潮が引いて干潟となった所 そこでするのが潮干狩り(しほひがり)
潮干狩りこそが人類最古の採取活動 採れたのはベントスと呼ばれる
底生生物(貝 蝦 珊瑚 海藻など)ネクトンと呼ばれる
遊泳生物(マグロやタイなどの魚)を捕獲するには いましばらく時を要した
「古皮質」は脳の記憶を司る海馬を形成する古層のこと
人類の原初の記憶が刻まれていて 大人でも子供でも潮干潟に立つとうち震える
玉藻から作る藻塩(もしほ)は 万葉の古歌にも数多く詠まれている

「雲雀」(ひばり)が春の季語 雲雀は別名 春告鳥
英名はLarkあるいはSky lark
市街地ではほとんど見かけることのなくなった雲雀(スズメ目ヒバリ科)
「揚げ雲雀」は雲雀が空高く舞い上がること
大阪では 大阪湾の人工島(WTCのあるコスモスクエア)でよく見かける
不況のおかげで空き地が多く そこが「原っぱ」になって 雲雀のテリトリ−
雲雀が空高く囀っているのは オスの縄張り宣言
ところで その雲雀は何処(いづく)から人工島へ来たのだろうか
本州中部以南では留鳥として周年生息するが 北方の個体は冬季に南方へ渡る
というから 垂直ばかりでなく 奪われた原っぱから
水平に飛んで来たのだろうが それにしてもよくぞ人工島を見つけたものだ

「春昼」(しゅんちう)が春の季語
眠気を誘うような 春の昼間のこと 今風だと「アンニュイ」だろうか
「ぷくぷかぴかり」はオノマトペ(擬音語)「さらさら」「ざあざあ」
「ひらひら」もその一種 「舟」は「船」に較べて小さいものに用いられる
波の揺れるにまかせて 係留された小船が「ぷくぷか」と揺れている
時折「ぴかり」と波が光る そんな気だるい春の昼の小船溜りの景

「うらら」が春の季語
晴れて日影の明るく穏やかな春の日 麗日 麗らか うらら うらうら
大阪港 天保山に世界最大級(回転輪直径100m 地上112.5m)の大観覧車
が出来たのは1997年(平成9年) 今年 透明のシ−スル−キャビンが
取り付けられた 一周約15分(おとな一人600円) 春の麗らの一部になれる
俳句といえるかどうかはともかく 有季定型の「ひらがなあそび」
ららのらの遠近法
なにやら 山本リンダの阿久悠作詞「狙いうち」の歌詞を連想させてしまう

<訂正とお詫び>
その七に掲載の句
日の本にまだ濡れゐたる桜蝦
(日の下)と表記するのが正 お詫びして訂正いたします

井上 明関連サイトリンク
暮らし方研究会
http://www.kurashikata.gr.jp

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