道草其の十九
「私の名はイーゼル」

2009年の年末に
思い立ってイーゼルを買った

来年からはしっかり絵を描こうと思ったのか
別にイーゼルなどなくとも絵は描けるのだが
実際に日々の仕事ではそうしているのだが
きっとそうなのだろう
何事にも形から入る僕の
いいのかわるいのかワカラナイくせが
そのような行為に僕をかりたてたのだ

一応の考えはあった
日々の仕事はデジタルのイラストレーションなので
スキャナーで読み取れる小さなサイズに
描く事がほとんどなのだが
スキャナーでは読み取れない
アナログオンリーの作品を作ろうという考え

それとても別にイーゼルが不可欠とは言えないが
まあもう買ってしまったので
これ以上の詮索はやめよう

2600円

中古品ではない
塗装も施されていない
安手の木で作られた
シンプルで原始的なイーゼル



ところが
シンプルな概観に似合わず
部屋の中に置いた途端
「私の名はイーゼル」と
割と大きな声で喋りはじめた

「私の名はイーゼル」
わかったわかった
とりあえず君の居場所はここだから
しばらくはそのままでいてよ
そのうちに描き始めるからね
「私の名はイーゼル」
…………

しかたない
『僕の名は谷口純平　今考えているのは
これこれこういう絵の構想で
君と一緒に買ってきたB1のパネルに紙をはって
まずは鉛筆かペンでスケッチをはじめるよ』

そう言うとイーゼルは喋るのを止めた

たぶん僕の次のアクション待ちに入ったのだろう
僕はすかさず彼の（ん？彼女か？）の背後にまわって
裏側上部に買ってきた日付と僕のサインを入れた

さて再びイーゼルが喋りださいうちに
僕は僕の構想を描きださなくていけない
そう思うと
イーゼルを買って家に連れ帰った事が
良かったのかもしれないと
思えてきた

2010年
彼（もしくは彼女）とともに歩きたい
広大なイメージの荒野を
他の誰かを楽しませようなどという考えは捨てて
この自分を楽しませる旅に出よう
＜じゅんぺい＞

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