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其の五十九 空き家
遠く離れて一人暮らしの義母は猫を四匹飼っていた。
田舎のことであるから猫は家の内外、
出入りも自由に暮らしていた。
同じ親から生まれた猫達は
全員雌の姉妹猫である。
靴下を履いたように白い足先で、
背には濃い灰色の縞をまだらに乗せた鯖柄の猫が二匹。
この二匹はよく似ているが、
顔が縦に白と鯖模様に分かれているおかしな顔が一匹。
鼻の周りだけが黒い、これまたふざけた鯖柄が一匹だ。
それから、全身縞模様の猫と黒猫である。
縞柄は、義母にトラ子と呼ばれていた。
すばしっこくて跳んだり跳ねたり
外で小動物を捉えて見せに来たりと野生的な猫だ。
黒猫は仔猫の時分からとても臆病な猫で、
時々泊まりに行く私たちの前に決して姿を現さず
戸袋の隙間から両目をピカピカ光らせて様子を伺っていた。
春に、義母が急逝してしまった。
今は私達が時々家の用事をしに帰るだけだ。
顔の縦半分鯖の猫と真っ黒の二匹が出迎えてくれる。
他の二匹は見限って何処か他所に行ってしまったらしい。
あんなに警戒していた黒猫が
喉を鳴らして寄って来るのが不思議だが。
この家を放って置けないなあといよいよ思うのだった。
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