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其の七十一 一本木
周囲に何もないところに立つ一本の木。
そんな木を切り倒して木材にしても、
そういう木は癖が強くて、
全く役に立たないそうだ。
反ったり捩れたり曲がったり。
乾燥させて真っ直ぐに切っても。
鉋をかけて整えても。
置いておくうちに癖が出て、ギシギシギシと戻ろうとする。
大人しく人の言うことなぞ聞きやしない。
他の木材と組んだり、何かを載せる為の水平を取ることも出来ない。
周囲に同じような木が立ち並ぶ植林された木達は、
素直で扱い易い木材になるというのに。
周囲に遮るものの何も無い一本木は、
生育条件が宜しくない場所でやっと一本だけ生え育ったという訳だが、
一人風雨に晒されてきた長い年月によって、
そんな不器用な木にならざるを得なかったのだろう。
そんな男をたくさん見てきた。
でも人間は木材ではないから、其れは其れで良いのだ。
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