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其の七十二 十分にご注意ください


インスタント麺の容器を3分間見ていたら
「熱い湯を使うので火傷に十分ご注意ください」と書いてあるのを見つけた。
「カップのフタはプラスチックであるから、縁で手を切らないように注意しろ」
「カップは紙製だから湯を入れたまま長時間は耐えられぬから覚悟しろ」
とも書いてある。
えらく親切と言うかお節介と言うか注文が多いことである。
人間になりたての者に向けた注意書のようだ。
これは呪文であって「この品のせいでこんな目にあった」という
苦情を避けることができるのかもしれない。
致し方ないがご苦労なことである。

凡そ通常の使い方なら血も出ないだろう
ヨーグルトの容器や菓子袋やらにも、
これでもかというぐらいの呪文が並んでいる。

其処で気付いたのたが、私は足が大きくて恰好も良くない。
その所為か、新しい、恰好の良い靴を買って履くと
馴染むまでは履く度に靴が血まみれになっていた。
踵や足の指の皮がむけて痛い。
激痛に耐えて目的地まで行っても足の痛さが頭に伝播して
使い物にならない。
しかし現代人の端くれとしては、室内でない限りは
靴を脱いで人前に立つことが許されない。
全身が足の痛みに支配されて恐ろしいことになる。

しかし
靴箱の注意書きにそんなことが書かれていただろうか。
靴ずれの苦情が来たりはしないのだろう。
それから
ピアノやバイオリンやフルートも靴の仲間かもしれない。
ペンや画材も仲間かもしれない。
「上手く音が出ないじゃないか」とか
「上手い絵や文章が書けないじゃないか」
と苦情を言う客は居ないのだろう。
何故か
此れらは人間の上位に位置しているのだろうか。
いや、宿命的に手と足が修行を好むのだろうか。



其の七十二
十分にご注意ください

其の七十一
一本木

其の七十
ダイヤと法灯

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