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其の七十 ダイヤと法灯
琵琶湖から少し離れた山奥の美術館に
インドの王様達の宝物が展示されているという。
友人と二人で遥々とバスに揺られて見に行った。
宝物の中の圧巻は五つの大きなダイヤモンドだ。
その光ときたらキラキラキラキラ、どれも煌めきが止まらない。
見ている自分の、息を吸う吐くという少しだけの揺らぎに合わせて、
赤、橙、黄、緑、青、群青、紫と光の色が変化する。
光を、間違いなく混ざりの無い七色に分解して辺りに放っている。
いつまでも何処までも見ていることが出来る不思議な光だ。
一生分の煌めきを見た気がして建物を出た。
翌日は琵琶湖の西に周って比叡山に登ることにした。
急峻な修行の山に、
今はケーブルカーで登ることが出来るのだから有難いことだ。
初めて延暦寺を訪れた。
仄暗い堂の中に微かに読経の声が聞こえる。
そして千二百年にわたって灯り続けるという法灯を拝観した。
暗い堂の中に、ほわほわっと明るい灯篭があった。
その中に有難い灯が燃えてあるのだ。
五十六億七千万年後まで燃え継いで
人と世界を照らすという仏陀の壮大なプロジェクトらしいが
その光は優しくて柔らかくて直ぐ傍にちんまりと在った。
キラキラダイヤとほわほわ法灯の中間に、
世界はあるのかもしれない。
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