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其の五十七 道程

暗唱できる詩が二つある。
一つは高村光太郎の「道程」。
中学生時分、毎朝、担任教師からクラス全員で暗唱させられたからだ。
『どうてい』という題名が堪らなく可笑しいのは
中学二年生だから仕方ないのである。
ニヤニヤと笑ったり、面倒くさがったりしながら
毎朝渋々暗唱だ。

担任のО先生は中年の女性教師で
家庭科室の壊れた足踏みミシンの皮ベルトを外し、
お手製の鞭を振るってビシビシと生徒を叩いた。
今時の学校ならあり得ないが三十年以上前は今時ではないので
大いに普通で誰も疑問を呈する事なく引っ叩かれていたものである。
小柄な先生が、逆らう男子生徒を追いかけて
持ち上げた椅子の脚を「さすまた」のようにして壁に追い詰め、
押し付けて激しく説教していたこともある。

先日、同窓会があり、御年86歳になる先生と再会した。
フラダンスに通うのが今の楽しみだと仰る。
背丈は更に小さく身体は細く背は丸くなっていた。
先生が私に尋ねた「あなたは今、どんなことをしているの?」
私は自分の仕事と「今どんなことをしているか」を手短に説明してみた。
先生は言った。
「ふぅーん。貴女まだまだ此れからなのね。頑張りなさい」
先生有り難うございます。
そうだ私はまだ何も遣り遂げていない。
ゴールも見えていない。
折り返してもいない。
遣りたい事が遣れたのかさえ判らない。
遣り続けなければならない。
何時だって。

『僕の前に道はない。
僕の後ろに道はできる』
先生に教えていただいた詩は今再び潮が満ちるように
私の心にやってきました。先生有り難うございます。
何時までも長生きして下さい。


其の七十二
十分にご注意ください

其の七十一
一本木

其の七十
ダイヤと法灯

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