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其の四十一 黒猫(1)

小山の上に家がある。
駅まで下っていく途中は見事に何もない山道だが、
駅に近づくにつれて数件の商店が並ぶ。

野菜や総菜を並べる店。
いつからあるのか知らないが小花柄のブラウスやモンペ、
手袋が吊下げてある店。
開いているのを見たことがない漢方薬屋などが続く。

判子屋と建具屋の間に車の入れない細い路地があり、
そこを抜けると少しばかり早く駅に着く。
道の両側には、住人が植えた強蕗や龍の髭、南天、万両などの前栽、
菖蒲やさつきなどの植木鉢が並ぶ。

その影に野良猫の母子を見掛けるようになった。
猫は先から居たのかも知れないが、親一匹のときは見過ごしていたのだろう。
子猫がよちよちと動き始め、
目に立つようになって改めて見るようになったのだろう。

駅へ急ぐ通行人の中に、歩調を緩めたり、立ち止まってはしゃがみ込み、
子猫に話し掛ける猫好きも居る。
猫好きのついでに、今度はポケットに食餌を入れてきて、与えてみようかと思う。
黒い子猫二匹と白黒斑の子猫、白地に黒い模様を乗せた母猫の都合四匹。

しばらくすると子猫の一匹を見掛けなくなった。
もらわれて行ったのだろう。
そのうち母猫ともう一匹も居なくなり、黒い子猫一匹になってしまった。
母子で引っ越したか、もらわれて行ったのだと思うことにする。

判子屋の太ったお婆さんが足を引きずりながら看板を出したり、
勝手口の前を箒で掃いたりしているのを、黒い子猫がついてまわっていた。

勝手口の前に皿と段ボール箱が置かれている。
黒い子猫は箱の上で小さい香箱を作っていた。
判子屋の入り口に敷かれたマットに座り、
お婆さんが出て来るの待っていることもあった。
マットの上で日向ぼこをしている日もあった。
誰が教えなくても、子猫は猫の仕事をしている。

それを見るのは楽しい。

其の七十二
十分にご注意ください

其の七十一
一本木

其の七十
ダイヤと法灯

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