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其の三十四 海の向こうの町
父と妹と私の三人で新しい家を見に行った。
愈々、いけなくなったので家を手放すことになったのだ。
東京湾をぐるりと回って私達が今住んでいる町と
丁度、反対側にある町へ。
海の見える海岸近くは昔ながらの漁師町なのだろう。
駅に着くと海とは反対側の駅前に出てバスに乗って十五分程。
山を切り拓いて出来あがった町。
新築の家並みが立ち並ぶニュータウン。
こちらの家と一軒置いたあちらの家とどちらが良いか。
三人で新築の匂いのする家の中を見てまわった。
「やっぱり角地がいいな」と父は
角地の家を買う事に決めたようだった。
商売をするなら角地がいいだろう、と。
するのか? 商売を。
しないだろう。おそらく。
しかし、「どういう商売が良いか」当分、考えることだろう。
死ぬまで続くだろう。
東京湾にそのうち立派な橋が架かるのだ。
そうしたら此処ら辺りはとても栄えて土地も値上がりする。
今のうちに此処に引っ越して来るのは
先見の明があるということだ。
父は楽しそうに話していた。
乾いた強い風が引切り無しに吹きつける町だった。
風の音か耳元でボウボウと鳴っていた。
楽しい父の人生だと思った。 |
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