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其の二十九 赤い毛糸

北側の四畳半は、
縁側から建増しした工場へとつながった造りになっていた。
工場と言っても当時はすでに閉めており、そこはそのまま、
普段は使われない大きな物置部屋となっていた。
全体がうっすらと埃をかぶり、白々と微動だにしない物置部屋。
それに連なる四畳半も、あまり使われない部屋だった。
窓はあるが、開けると隣家の壁なので、陽が当たらない狭い部屋だ。

一人で留守番をしていたとき、
この部屋中に赤い毛糸を張り巡らせたらどうだろうか、と
思い立った。
これは大層素晴しい思い付きで、子どもの心はどきどきした。
やる気の源、そんな泉がどこに隠されているのか、
今でも知りたいが、どこからともなく、猛然とやる気が湧いてきた。
赤い毛糸玉が先に手元にあっての発想だったのかもしれない。
早速に、赤い毛糸を長く引き出して切り、部屋中に張り巡らせることにする。
砂壁にセロハンテープはくっつかないが、
柱や窓枠、桟などは木製であるから、
セロハンテープで充分にくっつけることが出来る。
事務机や箪笥、押し入れの取っ手にもくっつけることが出来る。
柱の高い位置や鴨居、電器照明には椅子や机によじ登って貼り付けた。
四畳半の中の、あらゆる二辺、
あらゆる二点を赤い毛糸で繋ぎ、赤い毛糸を張り巡らせた。

中々の力作、大作であったと思う。
私は満足した。
帰宅後の家族の反応や作業後の処理などについては一切覚えていない。

其の三十八
太田道灌

其の三十七
子 供

其の三十六
御小遣い

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