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其の二十八 自慢
祖母の数ある自慢の一つは、
「昔、近所に上田馬之助が住んでいた」ことだ。
上田馬之助とは昔のプロレスラーである。
ジェスの登場する「ララミー牧場」とともに、
「プロレス中継」は祖母のお気に入りだった。
祖母はプロレス中継を見ていて血圧が上がり、
翌日寝込んでしまうことも多かった。
すると、近所の中岡医院の中岡先生が、
黒い鞄を抱えて看護婦さんを連れ、往診にやって来る。
「おばあちゃん、また、プロレスかね」と
良く通る低音で祖母に話しかけていた。
聴診器を当て、血圧を計り、場合によっては注射をする。
今、考えると随分に親切なお医者である。
「でも、死んでしまうかと思った」と、
人一倍怖がり屋の祖母は真剣だ。
私の住んでいた地域では通常、女児の七五三は三歳、七歳で祝う。
しかし、祖母の「次の祝いまでに、
私は死んでしまうかもしれないから」という理由で、
私は、三歳、五歳、七歳の全てで着物を新調し七五三を祝ってもらった。
誕生日も七五三の日なので、
まあ、有難いことでもあり、文句は無かったが。
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