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其の二十五 倒れる

またまた深夜の犬の散歩である。
街頭の灯りを頼りに暗い道を歩いて行く。
道の左側には団地へと上がる階段がある。

その階段の下あたり、長い影が伸びていた。
通り過ぎようとして近寄ると影は横たわる人のようであった。
黒いまま静かに横たわっている。
唸りながら進む犬とともに近寄ると、
影は頼りなくズルズル伸びていくようであった。
指先から落ちる海鼠のように頼りなく伸びていくあの感じだ。
足が竦む。

暗がりの中、よく見ると影は微かに手足を動かしている。
「大丈夫ですか?」と声を掛けてみたら
影の人が「落ちた」と言った。
それ以上はわからない。
これ以上近寄ると怖がって吠えている犬が噛み付きそうだからだ。
影なら噛み付いても構わないが声を出している以上は生身の人だろう。
影は階段から落ちない。
生身の人間は咬まれたら痛いし、それはこちらも困る。
近寄れないけれど声を掛ける。
「起きられますか?」
「うう」と唸っている。

困ったことだ。
助けてあげるにも、
この阿呆で臆病な犬をどこかに結ぶしかないではないか。
犬を結べるところがここら辺には無いのだ。

そこへ団地の住人らしき男性が二人現れた。
計ったように手には懐中電灯を持っていた。
海中電灯というのがあったら、どんなかしら。
海鼠を美しく照らすのか、漁の便利のためなのか。
「階段から落ちてしまったようですよ」と伝え
私は元来た道を引き返して行く。
不発弾のような親切心は階段の前に置いて来た。

其の三十八
太田道灌

其の三十七
子 供

其の三十六
御小遣い

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