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其の二十一 手

其の頃の夜と言ったら今とは比べようもなく、
早くて堅固で侵し難い夜であった。
十時前には何処の「家庭」も完全に終了してしまう。
洋酒会社のコマーシャルの音楽が流れていたのを幽かに記憶している。
曲の題名が「夜が来る」であるのを知ったのはほんの最近だが、
子供にとっては真に夜が来るのを告げる旋律であった。

居間の座卓は母と祖母に片付けられて、とっとと布団が敷かれる。
寝巻きに着替えて歯を磨き、
帰宅しない父を除いて家族全員が寝てしまうのだが、
子供の私は居間で祖母と布団を並べて眠っていた。
この習慣は二階が増築され、子供部屋が作られるまで続いた。
祖母に手をつないでもらわないと眠れない子供だったのだ。

そんな子供の日々の心配は祖母の死後であった。
如何にして眠ったら良いのか。
祖母は手だけを残して亡くなるわけにはいかないだろうか。
祖母の手だけ、無理を言って残してもらう方法というのはないだろうか。
怖い話ばかり集めた子供向けの本には、寺に収められている
「河童の手」やら「鬼の手」やらの話が写真付きで載っていた。
そんな本を読んだ為か、手だけ残してもらう方法を
頻りに考えながら眠りについていた。

祖母が好きなのか、鞣したような、練絹のような、
皺だらけの祖母の手が気持ち良いだけなのか、
恋しさの軸足がわからないが
子供とは、そんなものではないかと思う。

其の三十八
太田道灌

其の三十七
子 供

其の三十六
御小遣い

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