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其の二十二 手形
手形やら小切手やら。
現在、かつかつの暮らしながらも、
そうした物に縁無く暮らしているということは大層有難い。
それらが持つ大人の事情は奥が深すぎて対応が面倒臭そうなことこの上ない。
頭が悪いので到底ついて行けない。
仮に頭が良くともついて行きたくはない。
小学校から帰ってくる私を母が待ち構えているときがあった。
何やらの紙切れを駅前の信用金庫に走って届けないとならないのである。
これは小学生の私のみが果たせる仕事であった。
大変重要らしいのだが、全くどういうことなのか理解せずに行っていた。
別段、脚が早いわけではないが、
気分的には走って行かねばならない雰囲気で信用金庫に向う。
既に一般の入口は閉まっている時間なのである。
裏の通用口にまわるのである。
窓口じゃないところにいる窓口のお姉さんに労われるのであった。
「ご苦労様。いつも大変よねえ」
小学生が相手ではお姉さんが労うしかないのである。
支店長は奥の席で苦虫を噛み潰していた筈である。
大人が行くわけにはいかない任務なのであった。 |
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