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其の十六

傷跡

祖母は右手の小指が曲がっていた。
子供の頃、割けた竹串の棘が親指に刺さった。
その棘は深く刺さったまま取り出すことが出来ず、
数日をかけて、幼い祖母の手の平を横断していき、
小指から抜けて出たのだった。
そのために。
小指が曲がっているという話であった。

また、腹には臍が二つあった。
子供の私は臍が二つあると信じて疑わなかったが
それは手術の痕であると後に理解した。
子を生さなかった人であるので、おそらく婦人病の手術であったろう。
祖母の話では、手術を受けた後、傷が塞がらず
血がびしょびしょと流れ続けていたという。
「看護婦さん、看護婦さん」と。
一晩中、助けを呼んだが、看護婦も医者も、その晩、
病院から逃げてしまったということであった。
災難な話である。

目の前の、祖母の話ではあるが、恐ろしくて気が気でない。
「それで、どうなったの?」
「どうなったのか…」
他人事のようであった。

其の七十二
十分にご注意ください

其の七十一
一本木

其の七十
ダイヤと法灯

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