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其の十五

妖怪城

駅から20分、しかも上り坂である。
夜闇で途中は真っ暗だ。
歩きたくないのでタクシーに乗ってしまう。
小さな駅なので、代わる代わるに乗る車の運転手の顔を、
なんとなく覚えてしまった。

乗り込むと本日の車はY運転手であった。
当たりのようだ。しかも、今日の話は飛び抜けて面白かった。

「小机城が妖怪城だったことを知ってるかい?」
確かに、このあたりには昔、城があって、
城址は鬱蒼とした小高い山のまま公園となっている。
毎年、春には市長まで招いて
城址祭りがおこなわれていることは知っているけれど、
それが妖怪城だったという話は知らぬと言ったら話が始まった。

その昔、北条の一出城であった小机城だが、
ここは難攻不落の城として知られていた。
武田だか上杉だかに攻められても相当に持ちこたえ、
敵を追い返してしまうのだということであった。
「なんでかわかるかい?」とY運転手。
さらに問うが、知るはずもない。

「小机城の城主はニッポンナリヒラとよばれた素晴らしい美男だったのだ」。
在原業平はもともと日本人であるから日本業平はどうなのか?
「日本○○○」。
何が適当であるのか。思いつかぬのが悔しい。
外国人の美男子など思いつかない。
アメリカに好きな映画俳優はいるが「日本ジョニーデップ」と
いったところでまったく意味がわからない。

話が続いている。
兎に角とんでもなく良い男っぷりの殿様がいる城なので、
普段から女の妖怪がこの城には集まってきて大変だった。
そして、敵が責めて来ると、その殿様を守らんと女の妖怪たちは城を守り…。
「…坂東ナリヒラ、アズマナリヒラ」なら意味が通るか、と膝を打つ間もなく
話は進む。
「次々に敵を打ち負かし…」。


妖怪は男女だろうか。
雌雄ではないだろうか。
幽霊は確かに女臭い。そして人の世と続いていそうだ。
幽霊の図柄、絵姿は皆、女の専売特許のようではないか。
男の幽霊とはどんなものか。
落ち武者、あるいは蔵の壁にぶらさがっている小僧の神様ぐらいしか知らん。

轆轤首は女だろう。
猫娘も砂かけ婆も女子。
美男の殿様を囲んで集まっても、あまり色っぽい光景には思えない。
鬼婆の編隊では美男城主がうんざりだろう。
もっと妖艶な美女妖怪が集まるのだろうか。
しかし、敵を打ち負かすほど強いのだろうか。
確かに項垂れている幽霊よりは威勢が良さそうではあるが、
大きな頭だけの強そうな奴やら、
毛むくじゃらの妖怪などは雄ではないのか。
だいたい妖怪に雌雄があるのだろうか。
壁や反物や傘はどうなのか。

十分ほどでマンションに到着した。
車代だけで申し訳ないがお礼を言って車を降りた。

其の七十二
十分にご注意ください

其の七十一
一本木

其の七十
ダイヤと法灯

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