茶柱横町 茶柱横町入口へ
 
 
プロフィールを見る
前を見る 次を見る

其の十四

名古屋

祖母は年の離れた末の妹と、大層に仲が良かった。
名古屋に嫁いでいた為、名前ではなくて「なごや」と呼ばれていた。
本名は「キソ」という。
女ばかり続けて生まれると「木曽街道の女止め」にあやかり、
昔は、こうした命名がされたようである。

この「なごやのおばさん」はおおらかでユニークな人であった。
脳味噌の皺もあっさりと少なめに刻んであり、
気持ちの目盛りも三つぐらい。
子供心に親しみやすく、気軽に話のできるおばさんだった。
「バナナ」が便通に良という話題が出たときには、
「なあるほど、確かにわしゃあバナナを見るとうんこをしたくなるけ」
と陽気に言い放っていた。

おばさんは祖母が具合を悪くして寝込む度に、
世話をやきに名古屋からやって来た。
人の良い「なごや」ではあるが、
家庭の主婦としての事情もあったと察する。
そう度々の上京では不都合もあっただろう。
駆けつけて来られないときもあった。

入院中の床から、祖母は「なごや」に葉書を書いた。
「…来てくれないなら、あたしが死んでも、
アンタには、つーぱんひとつだってあげないからな。」
と、葉書には書かれていた。

其の七十二
十分にご注意ください

其の七十一
一本木

其の七十
ダイヤと法灯

バックナンバーINDEXを見る
前を見る 次を見る
| 著作権について | このページのトップへ | 茶柱横町入口へ |