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其の十四
名古屋
祖母は年の離れた末の妹と、大層に仲が良かった。
名古屋に嫁いでいた為、名前ではなくて「なごや」と呼ばれていた。
本名は「キソ」という。
女ばかり続けて生まれると「木曽街道の女止め」にあやかり、
昔は、こうした命名がされたようである。
この「なごやのおばさん」はおおらかでユニークな人であった。
脳味噌の皺もあっさりと少なめに刻んであり、
気持ちの目盛りも三つぐらい。
子供心に親しみやすく、気軽に話のできるおばさんだった。
「バナナ」が便通に良という話題が出たときには、
「なあるほど、確かにわしゃあバナナを見るとうんこをしたくなるけ」
と陽気に言い放っていた。
おばさんは祖母が具合を悪くして寝込む度に、
世話をやきに名古屋からやって来た。
人の良い「なごや」ではあるが、
家庭の主婦としての事情もあったと察する。
そう度々の上京では不都合もあっただろう。
駆けつけて来られないときもあった。
入院中の床から、祖母は「なごや」に葉書を書いた。
「…来てくれないなら、あたしが死んでも、
アンタには、つーぱんひとつだってあげないからな。」
と、葉書には書かれていた。 |
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