茶柱横町 茶柱横町入口へ
 
 
プロフィールを見る
前を見る 次を見る

井上あきら習作篇 その四十五 当季雑詠


「鴛鴦」
懸崖の菊の尖なり巡視艇


茹で栗の断層写真かも知れず


十粍のガラスのエッジ冬立つ日


熱燗は湯煎がよろし湯気の中


熱燗や銚子の首をつまむ指


鴛鴦の雄の激しき思ひ羽ね


木枯や書肆の隣の酒肆に入る


小春日の綺麗な男女レズビアン




<字句補足説明>
【本稿の季語の説明については その多くを角川書店編
「第三版俳句歳時記 秋の部・冬の部」及びインタ−ネット歳時記「季語歳」
http://cgi.geocities.jp/saijiki_09/index.html
に掲載された内容を参照しています】

十一月十五日は七五三
今日十一月二十二日は二十四節気の小雪(せうせつ)
各地で雪だよりがきかれる頃 一気に冬支度(冬着の準備)
明日十一月二十三日は旧・新嘗祭(にひなめさい)
天皇が新穀を天神地祇にすすめ また 親しくこれを
食する祭儀(広辞苑)
国民の祝日 勤労感謝の日というのが今日では一般的
名残の秋と冬の初めの混在した句が並ぶ

今回の主題は「鴛鴦」(をしどり)
カモ目の水鳥 東アジアの特産 日本にも広く分布
夫婦・男女の仲く常に連れ立っているさまをいう語(広辞苑)
漢字は難しいが「をしどり夫婦」の「をしどり」
比翼の鳥(ひよくのとり)
二羽の鳥が互いにその翼をならべること
比翼連理(ひよくれんり)
連理とは一本の木の幹や枝が他の木と連なって一本
の木に見える様子(連理の枝)
ともに男女 夫婦の仲睦まじい様子を表した言葉

「懸崖の菊」(けんがいのきく)が秋の季語
懸崖の菊は 菊花展の花形
絶妙のバランスで作りあげられた菊と人との合作
根元から迫り出した極限の姿はじつに不安定
伸びて咲きたい菊の気持ちに寄り添って
人の技が介助してできる芸術品
俳句という短い詩形式は政冶を論じるには不向き
流行より不易を芯にして詠まれてきた
政冶向きのことは意図的に避けてきた
だが昨今の国内外の政冶状況を鑑みると
そんな俳句だけではつまらない
懸崖菊の尖端の「尖」(さき)は尖閣諸島の「尖」(せん)
「尖」は先端が細く鋭く錐(きり)のようにとがること
とても不安な日本国民の心境を「尖」で象徴
このたびの巡視艇の活動にそれを重ねた
かつて豊臣家の武将(茨木城主)片桐且元(1556〜1615)
失脚の際に詠んだ句<桐一葉落ちて天下の秋を知る>
前漢時代の古典「淮南子」(えなんじ)を
下敷きにしたといわれる
桐は豊臣家の家紋であり 片桐の桐でもある
「桐」を象徴的に詠みこんだところが鋭い
坪内逍遥(1859〜1935)は これを題材にして
専門のシェクスピア劇を意識した
「桐一葉」(きりひとは)という戯曲を得た

「栗」(くり)が秋の季語
栗を割るとどれもその断面が脳の断層写真と酷似
僕も以前脳梗塞で倒れたとき
脳のCTスキャン(コンピュ−タ−断層写真)を
たくさん撮られた 茹で栗との取り合わせの句
どれも同じように見えるばかり
はたして僕の脳かすら訝しい
断層は写るが だが何を考えているかまでは判らない

「冬立つ日」(ふゆたつひ)が冬の季語
二十四節気の立冬のこと
11月7日がその立冬
十粍(ミリ)のガラスの切れ端(エッジ)は冷たく痛々しい

「熱燗」(あつかん)が冬の季語  二句
「燗」は酒を器に入れて適当な温度に温めること
その温め加減(広辞苑)
熱くしたものが「熱燗」と呼ばれる
「湯煎」(ゆせん)加熱した湯に銚子を浸けて温めること
業務用や電子レンジ対応もあるにはあるが
錫などで作られた底が平らな雪平鍋が手軽
米の精の日本酒(農業と醸造業)
猪口 銚子などの陶工芸の器(窯業)
錫器などの金属工芸(金属加工業)
きき酒師 葉石かおりさんの弁
「常温や冷やしたものより 米のうまみや甘みが感じられる」
「燗酒とともに同量の<和らぎ水>をチェイサ−とすれば飲み過ぎ防止に」
小ぢんまりとした日本の総合文化といえなくもない
(この項 2010.1.20付け読売新聞「粋」参照)

「鴛鴦」が冬の季語
雌は地味な暗褐色だが
雄の冬羽は極楽の色合い
人間以外の動物界では雄の方が派手
さらに翼には橙色の思い羽
尾の両脇にあるイチョウの葉形の羽
カモ キジ クジャクなどにもある
人間の帽子や襟に羽を挿す習慣は
きっとこれを真似たのだろう

「木枯」(こがらし)が冬の季語
「凩」と一字で表記することもある

秋から初冬にかけて吹く 強く冷たい風 今年の木枯らし一号は 近畿地方では10月26日
例年より7日ほど早く吹いた
書肆(しょし)は出版社や書店のこと つまり本屋
酒肆(しゅし)は酒類を飲ませたり売る店のこと つまり酒屋
肆(し)には 横に連ねる 並べて見せるという意味がある
難しそうな漢字は一見高級そうに見せるが
平たく言えば「店」ということ
よく騙されたものだ ことに酒肆という看板には
木枯らしのせいにして本屋に行くつもりが酒屋(あるいは小料理屋)
に入ったというだけの話(難しい漢字がならぶ句にもご用心)
私淑する俳人 山口誓子の<海に出て木枯帰るところなし>(1947年)
木枯の句に免じてご勘弁あれ

「小春」(こはる)が冬の季語
旧暦十月の異称
暖かく春に似た日のことをいう
「小春日」は小春の頃のうららかな日
男と思った方も 美しすぎるのでよく見ると女だった
レズビアン(lesbian)は女性の同性愛者
近頃は 屈託がなくサラッとしている
(306句目 習作もやっと一里塚300句超)

<お知らせ>
一億人の俳句という向きもありますが 話半分 五千万人の俳句
俳句は日本語の国民的文芸の一形式 <読めれば詠める>
twitter上に五千万人の「茶柱ツイッタ−句会」を始めます
http://twitter.com/haijin575から投句できます
@haijin575へのダイレクトメッセ−ジからの参加も可とします

ハガキに句を書いて投句する方法は いまも全国的な俳句結社で実践中
もとはといえば明治時代に新しくできた郵便制度を一早く取り入れた正岡子規のアイデア「郵便俳句」
その進取の気風に倣い ツイッタ−時代の全国句会「茶柱ツイッタ−句会」
誰でも 何時でも 何処からでも 気軽に参加できる句会です
参加費用は無料です
俳句の優劣を競うコンク−ルの場ではありませんので
審査員も選者もいません 投句されたまま掲載されます
順位をつけたり 特別な賞を授与することもありません(添削もしません)

ル−ルは運営しながら随時定めてゆきますが
まず最低限 俳句といえる基本的ル−ルとして ただ一点

<五七五 十七音の中に季語を一つ入れること>と定めます

ツイッタ−に不慣れな家族 友人 知人の依頼による代筆ならぬ
「代ツイッタ−」は(代ツ)と末尾に書き添えていただければ可とします

季語の判定については インタ−ネット上の
「季語と歳時記の会」掲載の解釈を基本とします
http://cei.geocties.jp/saijiki_09

「茶柱ツイッタ−句会」参加者で
ご希望があれば その力量に応じて
「個人・茶柱ツイッタ−句作展」を不定期に開催することも検討中 
主宰にお気軽にご相談下さいませ

将来 投句作品の全句集を印刷冊子化あるいは
電子書籍化することもあり得ますので
作品の著作権は主催者に帰属することをご承諾いただきます 以上


〈第四回 茶柱ツイッタ−句会 応募作一覧(着信順 投句のまま)〉
2010年11月8日募集〜11月15日締め切り
11月22日掲載
お題(兼題)「立冬」「木枯」「時雨(しぐれ)」
「冬かもめ」(ユリカモメ 都鳥)
「枯葉」「落葉」「鯛焼」および「自由題(当季)」
一人三句以内( 一ツイ−ト三句以内)


<俳句の部>

枝離る刹那の枯葉ふと嗤ふ(大阪市 あきら)

吹溜り落葉にさだめあるごとく(大阪市 あきら)

川沿ひのビルは姿見ユリカモメ(大阪市 あきら)

夜長とも空を照らすはオリオン座(一宮市 俳句(ry )

愛知にも霜が舞い降り一苦労(一宮市 俳句(ry )

好事家が言いたいことはササゲ食え(一宮市 俳句(ry )

ステンレス柵に照り映ゆ冬かもめ(横浜市 十巣)

蜜柑の香誰かは知らぬホ−ムにて(横浜市 十巣)

立冬のペ−ジ繰る指渇きをり(横浜市 十巣)

どの下着どの靴下や今朝の冬(西条市 田所良雄)

五匹分煩わしきや冬の蠅(西条市 田所良雄)

冬来る唇荒れし指裂けし(西条市 田所良雄)

*
<総評>
「茶柱ツイッタ−句会」主宰 あきら

今回は参加者4名(18)総投句数12句(47)でした
()内の数字は第一回からの累計です
一人でも参加者がおられれば開催します
「継続は力なり」と申します
牛の歩みのようなものですが
コツコツ継続してゆきたいと思います

一宮市の俳句(ryさんは飄々とした詠みぶりが持ち味
句中の切れを工夫されれば一層句が生きると思います
ササゲ(?豆)の句はいささか俳句からは逸脱気味
横浜市の十巣さんは都会的でクリアな感性が魅力
蜜柑の香にそのデリカシ−がよく表れています
西条市の田所良雄さんは日常の身辺雑事を確かな視点で
詠まれ 滋味のある句とされました
俳句という器にそれぞれの個性が生かされている証し
今回はル−ル通りの俳句が揃いました
新宿区の新宿翁子さんは 都合でご参加いただけず残念
次回のご参加に期待しています

さて 俳句は説明文(散文)ではなく短い詩型(韻文)
説明には全くもって不向き
説明をしだすと器の中に納まりきれず
中途半端な説明まみれの駄文に終ってしまう
強調のための同意繰り返しをするいと間すらない
伝えたい言葉は一発で言い止め
あとは沈黙して読者に委ねる度胸がいる

俳句の型については前回説明
今回の説明は沈黙の間「切れ」について
作者が言葉で言い表さなかった思いを「切れ」の中に
読み取るのが読者の裁量権であり歓びでもある
詠む人(作者)はもちろん読む人(読者)も
「切れ」についてしっかり基礎を学べば
俳句の醍醐味がわかり面白さが倍増
大袈裟な表現を借りれば「俳句が100倍面白くなる」
俳句は作者と読者とが半々で完成させる詩といわれる所以
茶柱句会ファンには 一般教養として
俳句は詠まないが読むという方もおられる
<字句補足説明>は そういう方への補助線の提供
けっして大家のする「自句自解」などというものではない
「詠む人と読む人双方が共に学ぶ機会」として
さらに「茶柱ツイッタ−句会」が役立てれば幸い
(電子書籍化はその延長線上にある)

この「切れ」や「切れ字」のことは
かつて俳諧流派の秘伝とされていた
いいかえれば俳句を俳句たらしめる
最重要の工夫(詳しくは後述)
少なくとも
型と切れの約束事(基本)を学ばないと
いい俳句は詠めないし 読んでも理解が深まらない
だから面白くならない
存分に楽しむのはそれからのこと
「切れ」についての僕の思いを以下の短文に表した

「有季定型・自在の俳句」
五 七 五 十七音に季語一つ というのが有季定型の俳句の器
それを自在に生かす工夫が
「句中の切れ」によって生じる「間」
たんなる句読点にあらず
間は単純には一拍の時間と空間
これすなわち宇宙(無限)
自在の間

言葉を用いて表現する詩が
言葉を用いずに一つの「切れ」によって
俳句に沈黙の間(宇宙)を宿す
という大胆不敵な工夫
俳句は有季定型という器と句中の切れという工夫
とによって 他の文芸に拮抗している
俳句侮り難し

自在の「切れ」ゆえに一句から
十人いれば十人
百人いれば百人の俳句が生じる
それこそが俳句の妙味
読者には自在に感興を覚える裁量権がある
それによって読むという創造に参画
一句をきっかけとして
感興は自在に飛翔する

読めれば詠める
かくして読者は作者に
作者もまた読者になる
読者と作者がかくも近しい
文芸がほかにあるだろうか


【切れ・切れ字の補足説明1】
古志主宰・長谷川櫂著「俳句的生活」(2004年・中公新書)からの引用
芭蕉はあるとき 高弟の去来と丈草に切れ字のことは
昔からの秘伝であるからやたらと人に語ってはならないと口止めしたうえで 
切れ字について具体例をあげながらこと細かに教えたということが 
芭蕉の死後 去来が書いた「去来抄」に記されている 
芭蕉は二人の門弟に
「切字を入るるは句を切るため也 切れたる句は字を以て切るにおよばず」
と語ったという 
もともと切れている句は切れ字を入れて切る必要はない
先達は句の切れる切れないがわからない人のために 
これこれの字が切れ字であると定めた 
これらの切れ字を入れると十句のうち七 八句は切れる

「切字に用ふる時は、四十八字皆切字也 用ひざる時は一字も切字なし」
俳句には「や」「かな」「けり」などの入っている句と入っていない句の
二つに分けることができる そのそれぞれに切れる句と切れない句がある
すなわち 切れ字が「入りて切るる句」「入りて切れざる句」
「入れずして切れる句」「入れずして切れざる句」
の四つに分けられることになる

【切れ・切れ字の補足説明2】
<霜柱俳句は切字響きけり>石田波郷(1913〜1965)(いわゆる風切宣言)
この句は出征前の1943年(昭和18年)句集「風切」に所収されていたが
戦後1946年(昭和21年)仏文学者の桑原武夫(1904〜1988)の「俳句第二芸術論」に対する反論として果敢に再表明され 別な意味で記憶に残った

西東三鬼(1900〜1962)とともに「天狼」主宰した山口誓子(1901〜1994)は切れはあるが 波郷とは反対に「切れ字」を俳諧的情趣とみなして 徹底的に排除しモダニズムの詩を目指す態度を貫いた 僕は心情的にはこの立場にいる

切れにまつわる例句三題(便宜的に切れの箇所を一文字開けて記載)
霜柱 俳句は切れ字響きけり 石田波郷「風切」1943年(昭和18年)
雲の峯幾つ崩れて 月の山  松尾芭蕉「奥の細道」1689年(元禄2年)
七月の青嶺まぢかく 溶鉱炉 山口誓子「凍港」1932年(昭和7年)
(いずれも切れ字による句中の切れではないが)


「第五回茶柱ツイッタ−句会(平成22年忘年句会)」のお知らせ
11月22日募集〜11月29日締め切り 12月8日発表
兼題は「七五三」「柚子湯(ゆずゆ)」「初雪」「小春」(小春日)
「師走」「忘年会」「山茶花(さざんか)」「茶の花」「石蕗(つは)の花」
いずれも当季(冬)の季語ですので一句に一つを選んで詠み込んで下さい 
あるいは「自由題(当季)」で詠まれても結構です
投句は一人三句まで(1ツイ−ト3句まで)11月29日当日着信可
ふるってご参加下さい
「第六回茶柱ツイッタ−句会(平成23年新春句会)」のお知らせ(予告)
年末 年始につき予定がいつもと異なります
締め切りは11月30日着信可  平成23年1月1日発表
<新春詠三句>新年にふさわしい句をお待ちしています(1ツイ−ト3句まで)
兼題は「元旦」「正月」「初春」「新年」「去年今年(こぞことし)」
「初空」「初日」「初景色」「初富士」「初詣」「鏡餅」「書初」「門松」
「注連飾」「雑煮」「屠蘇」
もちろん「自由題(当季)」でも結構です
気分を改めてご参加下さい


Let's Tweet
haijin575をフォローしましょう
井上 明関連サイトリンク
暮らし方研究会
http://www.kurashikata.gr.jp

第60回
茶柱ツイッタ−句会

第59回
茶柱ツイッタ−句会

第58回
茶柱ツイッタ−句会

バックナンバーINDEX
前を見る 次を見る
| 著作権について | このページのトップへ | 茶柱横町入口へ |