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其の一 前世
「前世」というのが流行っているようだ。
「あなたの前世は…」と言い当てる人がいて、皆、神妙に聞いている。
それぞれ、昔の侍だったり、お姫様だったり、ロクロを回す人だったり、
と言い当てられたいらしい。
「○○村の農民で○吉だな」と言われても
当たっているのかわかからないと思うのだが、
それは斟酌しないでいいようだ。
しかし、何がしか自分の前世というのは、
自分の性分とつながっていると思えば面白い。
そう考えると、やけにはっきり自信をもって
「前世は…」と自分で言い出したくなってきた。
私の前世は犬か狼ではないかと思う。
とりたてて犬好きでもなんでもないことは断っておきたい。
どちらかというと猫のほうが好きだ。
しかし、人間嫌いの人間もいるのだから、犬が犬好きとは限らない。
人間でないことは確かだ、と感じている。
なぜなら、いつまでたっても、
「人間の習慣」になじめないところがあり、ぎくしゃくしている。
そんなときも
「ああ、前世は犬だったのだから仕方ないな」と思うと心が落ち着く。
しかし、犬の中でもかなり人間通な犬だったという自負を感じる。
犬界の中でも「人間のことなら、あいつに聞くがいい」と言われていた。
ような気がする。
おそらく寺かどこかに飼われていた犬。
または、寺の裏山に住み、
親切な和尚にときどき子どもの分までエサをもらっていた狼。
人間とはどんなもんか?と、面白げにいつも観察していたようだ。
すると、「おお、こいつはいつも神妙な顔をして座っておるな。
どれひとつ、経を読んでやろう。ありがたいお経を聞けば、おまえも
来世は人として生まかわるかもしれんな」
などと経を読み聞かせられ、その気になっていた。
ような気がする。
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