その10 秋深し
今年の秋、私は初めてNYに出かけます。マンハッタンには前白と後泊の2日だけなので観光する時間は不足ですが、楽しみにしているのはセントラルパークの秋景色です。映画で見かける枯葉のふぶくシーン、そこに自分が居て、「旅の余韻」を味わっている……。
う〜ん、かっこいいなぁと、想像だけでうっとりしてしまいます。
私が過ごすのはマンハッタンから電車で1時間ほど行ったGARRISONという静かな町です。そこで「フォーカシング」という心理療法のワークショップに参加し、トレーナーの認証式に出席します。フォーカシングを知ったのは7年前になりますが、この年月をかけて私の中に根付き、今回トレーナーの役割を得ます。今後私は、アサーティブネスと並んでフォーカシングを提供していくでしょう。
フォーカシングに先立つこと12年前に、私はアサーティブネスを知りました。アサーティブネスは「自己尊重」のワークです。私が今回のように自分の好みの療法に文字通りフォーカスし、自分自身のために使い、さらに伝え手になっていくプロセスには、「自己尊重」のキーワードが働いています。54歳の私がこれから新しいことを始め、楽しむのも、アサーティブネスが生きているからです。
アサーティブネスの思想は「12の権利」の文言で記されています。
そのうち二つ目は、
<2>私には、賢くて能力のある対等な人間として、
敬意を持って扱われる権利がある
というものです。
この文言は、いつもクラスで物議をかもします。
「おこがましい」「傲慢だ」「自分は賢いとか、能力があるとか人に言われなくていい」「自分の努力次第で手に入れる評価なのに、自分から権利なんて言い出す筋合いではない」「こういう考えが蔓延するから自己中心が増長する」……。「こころのちからメッセージ」に言い換え、「私は、自分の良いところや能力を、ちゃんと認めてもらっていい」と記しても同じように非難を受けます。
私は「何が起こっているのだろう」と想いながら聴いています。そして、これらの意見の背後に不安や恐れ、怒りを感じ取ります。「そんなことは許されない」「あるはずがない」「ノーサンキュー!払い下げ」という、お断りの否定的な感情です。それらが同調を呼び、場を席巻していきます。
この文言は、もしかしたら私たちに、人に裏切られた体験を思い出させるのかもしれません、特に私たちのイノセンス、無垢さが、手痛い仕打ちにあったことを。
「もう二度と自分の素直さや愛情を人に示したりしない、自分の明るさやちからを発揮したりしない、もう二度と愛されようなんて思わない。なぜなら、それをして私は人々の前で丸裸にされ、私の良心は恥を掻かされたから」。理不尽さに対して泣いても怒っても冷笑された思い出、自分の尊厳やプライドなど、早く捨てた方が安全だった子供時代。
その時、もう二度と傷つかないようにと羽織ったこころのマントを翻し、防戦を試みているかのようです。
議論を聞きながら、「ここは泣くっきゃないな」と思います。誰より私が、涙をこらえることができません。この文言が正しいか間違っているか、論理的に話し合うような事態ではないのです。
でも、これこそパンドラの箱の最後に残った「希望」なのかもしれません。急いでふたを閉め、見なかったことにしてもそこにあるもの、いつも出番を待っているもの。私の中にすでにある叡智、尊厳、払われるべき敬意。深いこころの闇の中でも毅然と輝いていて、まっすぐ繋がるチャンネルが開くのを待っているもの。
涙と怒りが過ぎて行った後、嵐の後のように、叡智と尊厳が輝くような気がします。
NYで、グラウンドゼロに立ってみようと思います。あの事件は、丁度「こころのちから」の原稿を完全に送付して、階下に降りていったときに見ました。脱稿した達成感も喜びも安堵感も、全部忘れました。あれからの日々、何もかもが悪くなったように感じてきました。でも、本当は前に進んでいる、希望が生きている、それを確かめに行ってみたいと思います。
「12の権利」*********************************************************
<1>私には、日常的な役割から自立した一人の人間として、自分で物事の優先順位を決める権利がある
<2>私には、賢くて能力のある対等な人間として、敬意を持って扱われる権利がある
<3>私には、自分の感情を言葉で表す権利がある
<4>私には、自分の意見と価値観を延べる権利がある
<5>私には、「イエス」、「ノー」を自分自身で決めていう権利がある
<6>私には、間違う権利がある
<7>私には、考えを変える権利がある
<8>私には、「わかりません」という権利がある
<9>私には、欲しいものを欲しいと言い、したいことをしたいという権利がある
<10>私には、人の悩みの種を自分の責任にしなくてよい権利がある
<11>私には、周囲の人から認められることを当てにしないで、人と接する権利がある
<12>私には、アサーティブでない自分を選択する権利がある
「こころのちからメッセージ」**********************************************
<1>私は、私が何をするか、どれから始めるかを自分で選んで決めていい
<2>私は、自分の良いところや能力を、ちゃんと認めてもらっていい
<3>私は、自分に素直になって、人に感情を伝えていい
<4>私は、自分の意見や価値観を、正直に相手に伝えていい
<5>私は、他の人の気持ちにではなく、自分のきもちにそって、「はい」、「いいえ」を言っていい
<6>私は、まちがえてもいい
<7>私は、きもちや考えが変わったら、無理にがまんせずに、決めたことを変えていい
<8>私は、わからないことがあったら、教えてもらっていい
<9>私は、自分の一番の希望を、いつでも相手に伝えていい
<10>私は、人の悩みを、自分のことのように背負わなくていい
<11>私は、周りの評価を気にせずに、自分の考えややり方を伝えていい
<12>私は、私のままでいい |