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その18 降る花

 日々桜花が降り注ぎます。曇り空と舞う花で視界がぼやけ、空を見上げながら、並木道をただ歩きたくなります。そぞろ歩く人も皆、少しふわふわしてみえます。

 道ばたで友人に会いました。一年ぶりに、桜歩きの季節ならではの再会です。
「お散歩?どうしてる?」と、他愛ない挨拶のつもりで声をかけたところ、「これから『哲学』の読書会なの」と、思わぬ硬派の返事が返ってきました。へぇぇ、と言った私の様子が、よほどぼんやりしていたのでしょう、彼女はクスリと笑ってから、「もうだいぶ前から参加してるのよ」と胸を張りました。

「それって、ヘーゲルとか、そういうの?」と、恐る恐る尋ねると、「うん。ずっとね、そんなのばっかりだったの。だけど今年は、なんだかくたびれたって、みんなで言ってね、今日から、新しいのを読むのよ。」と、文庫本を取り出しました。パラパラとページをめくりながら、「今日は、『人を助けるための嘘は許されるか』っていうテーマでね、自由に話し合うの」と楽しそうです。思わずまた、へぇぇ、と言ってしまいました。彼女は「じゃね!」とキッパリ片手を挙げて、軽やかに去っていきました。

 歩きながら、ふと気がつくと、私は「人を助けるための嘘は許されるか」について、考え込んでいました。急に胸が苦しくなった気がして、「やめやめ」と頭を振りましたが、またしばらくすると、考え込んでいるのでした。それで諦念して、ふぅと息を空に吐きながら、「それを考えると、なんで胸が苦しい感じがするんだろう」と、自分に尋ねました。

 苦しいそこから、「人を助けるための嘘なんてあるものか」と、声がしました。少し怒りを含んだ、鋭い声でした。えっ?と小さく驚いていると、「とぼけるんじゃない」と、尚鋭く言いました。

 それの言い分はこうです。「おまえは、一度だって、人を助けようとして、嘘をついたことがあるのか?いつだって、自分が助かりたいから、嘘をついてきたんじゃないか。『あれは人のための苦しい嘘だ』なんて、そういう嘘をつくもんじゃない」。やれやれ、とんだそぞろ歩きになったものです。すると急に、アサーティブネスの12番目の権利が、頭に浮かんできました。「12.私には、アサーティブでない自分を選択する権利がある」。これはいつも講座で、参加者も私も、安堵する権利です。「やれやれ助かった。いつでも対等、誠実、率直、選択と責任、などとは言ってられない、やってられない。それが人ってものだ」と。

 そんなことを反芻していると、それは今度は、慈悲深く語りかけてきました。
「怖がらなくていい。逃げなくていい」。桜の花が、涙で曇ってきました。「これまで自分が助かるために、いっぱい嘘をついてきた。それをそのまま認めていい。その通りって言えばいい。そうしたら、もう『これは、あなたのためだ』なんていう、苦しい嘘をつかないで済む」。

 薄い花びらが散華そのもののように吹雪いて、胸のつかえはすうと消え、声もせず、しあわせなそぞろ歩きになりました。

「みよみよのブログ」を作りました。
ご訪問下さい。
http://eyn.blog93.fc2.com/




「12の権利」*********************************************************
<1>私には、日常的な役割から自立した一人の人間として、自分で物事の優先順位を決める権利がある
<2>私には、賢くて能力のある対等な人間として、敬意を持って扱われる権利がある
<3>私には、自分の感情を言葉で表す権利がある
<4>私には、自分の意見と価値観を延べる権利がある
<5>私には、「イエス」、「ノー」を自分自身で決めていう権利がある
<6>私には、間違う権利がある
<7>私には、考えを変える権利がある
<8>私には、「わかりません」という権利がある
<9>私には、欲しいものを欲しいと言い、したいことをしたいという権利がある
<10>私には、人の悩みの種を自分の責任にしなくてよい権利がある
<11>私には、周囲の人から認められることを当てにしないで、人と接する権利が=∴ある
<12>私には、アサーティブでない自分を選択する権利がある

「こころのちからメッセージ」**********************************************
<1>私は、私が何をするか、どれから始めるかを自分で選んで決めていい
<2>私は、自分の良いところや能力を、ちゃんと認めてもらっていい
<3>私は、自分に素直になって、人に感情を伝えていい
<4>私は、自分の意見や価値観を、正直a湟に相手に伝えていい
<5>私は、他の人の気持ちにではなく、e猯自分のきもちにそって、「はい」、「いいえ」を言っていい
<6>私は、まちがえてもいい
<7>私は、きもちや考えが変わったら、無理にがまんせずに、決めたことを変えていい
<8>私は、わからないことがあったら、教えてもらっていい
<9>私は、自分の一番の希望を、いつでも相手に伝えていい
<10>私は、人の悩みを、自分のことのように背負わなくていい
<11>私は、周りの評価を気にせずに、自分の考えややり方を伝えていい
<12>私は、私のままでいい

その19
虹の向こう 山の彼方 飛ぶ鳥

その18
降る花

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春が来た 春が来た

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