茶柱横町 茶柱横町入口へ
 
 
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さて、茶柱横町にも春が訪れようとしております。今年の桜は平年より4日ほど早く開花するとのこと。楽しみです。<大森さん>は、ただいま禁煙中。もう1カ月ほど、長年の習慣を断って、お見事。<田中さん>は、ぶんか社から『アンデスメロンは安心です』という文庫を出版すべく、ただいま追い込みに入っています。<坂東さん>は、新しい名刺を作りました。そこには、茶柱横町の所番地も入っています。<山森さん>は、ただいま仕事で中国です。<山田さん>風邪はなおりました?<ふじわらさん>は、3册目の自著上梓の準備中です。<川島さん>と、下北沢の魚料理のお店で一献。ここは、隣のお寿司やさんからお寿司の注文ができました。<本庄さん>は、ただいま時代小説と平行して、舞台脚本を執筆中。<オオノさん>から、三軒茶屋のおいしいどころをメールで教えていただきました。<藤原さん><川島さん><本庄さん>とは、新しい本をつくる企みを。<近江の古郎女さん>は、暖かくなってきたことを、喜んでおられました。湖西の桜を見たいなあ。<森さん>からは、僕がデザインを担当した本についての一文をいただきました。

第六回
少年の部屋

大阪のミナミ、僕が12歳で小学校を卒業する迄すごした町。そして18歳から親元を離れ再び生活をしはじめた町。
 落語にも登場する高津の宮、今はもうなくなった石造りの小学校、生まれてはじめてハムカツを食べた空掘商店街、捨てられた玩具を探しまわった松屋町(まっちゃまち)おもちゃ問屋界隈、お茶の香りが今も鼻孔に残る心斎橋筋商店街、そして古書やレコードを求めて彷徨うように散策した道頓堀、アメリカ村界隈。今も記憶の中には当時の僕がその時代のその町の空気を吸っている。

故に、アメリカ村にある坂東さんの事務所を訪ねる時には、そんな青少年時代の僕が否応無しについてきて、新しい商業ビルが立ち並び若者であふれんばかりの町中を、鼻をくんくんさせて歩き回る野良犬よろしく(ああ、野良犬はいなくなったなあ)、当時の匂いの痕跡や面影が無いか確かめたりするハメになる。

「ま、建物や人は変わっても、全体にはミナミやなあ」などと宣う青少年時代の僕を、三角公園あたりにおいてけぼりにして、約束の時間に遅れ気味の僕は事務所に急ぐ。

ドアをノックすると「はーい」という聞き慣れた坂東さんの声。ドアノブを回し中に入るとそこは「古本も商うアンテーィクなおもちゃやさん」。部屋を間違えたわけではない。坂東さんの職業はコピーライター、しかしこれが坂東さんの仕事部屋なのだ。

「どこで仕事するん?」と言いたくなる程、所狭しと並べられたアンティークなおもちゃ、またおもちゃ。おもちゃの間からは、これまたアンティークな扇風機やトースターなどの電化製品も顔を覗かせている。
 アンティークといっても、ただ古ければよいというのではなく、坂東さんのこだわりは昭和レトロだ。
 自分が子供時代をすごした昭和の中で生まれ愛されてきたモノたちに限る、というわけだ。

茶柱横町の坂東さんのプロフィールにあるように、1日に1個はなにか集めなくては気が済まないという筋金入り(?)のコレクター故、おもちゃに対する品評などはせず、もっぱら眺めては(触っても良いものはさわりながら)「すごいなー」を連発する。

実は正直なところ僕にはわからないのだ、これらのおもちゃの魅力が。おもちゃに限らず僕にはどうもモノの魅力というのがわからず、故にモノを集めるというモノへの求愛行為が欠落していると常々思っている(カマトトぶるわけではなく)。まあしかし、坂東さんという人間は余計な共感など必要としない。自らの内燃機関に従って、日々コレクションを続けているのだ。

と、なにやらがさがさするので振り返ると三角公園からもどってきた少年時代の僕が、これまた少年時代の坂東さんとビー玉やメンコ、ベーゴマ、はては2B弾を使って遊びはじめた。そうだ、遊ぶのならOKだ。
 坂東さんの事務所からは3、40分ぐらいのところにある高津の宮が僕の少年時代の遊び場オンステージ。缶蹴り、かくれんぼ、三角ベース、2B弾や煙り玉・銀玉鉄砲を駆使した忍者部隊月光ごっこ、空地にある板っ切れを持って来てそこに蝋をぬり階段をすべりおりるなどなど。次から次へと遊びそのものを考えて、毎日毎日が遊びの連続だった。そんな日々をすごした少年もいつのまにか青年になり、そして大人になった。

大人になった後は、こころの中に住む少年と話はするものの、もう少年そのものではなくなった僕には当時を懐かしむことぐらいしかできない。

しかし、どうやら坂東さんは違うようだ。少年が今もそこにいるような、そんな気がする。無論、見た目はりっぱなオッサン(いや失礼)だ。が、凛々しい顔付きのその瞳の輝きは、「おい君は少年じゃないか、あの頃のままの」。

本当はどうなのだろう、坂東さんはどう感じているのだろう。
それは彼の連載『半ズボン少年を探して』を読み解いてゆくほかないだろうな。

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