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第九話 空とび猫 デナリの物語<1>



「デナリってどういう意味なんですか?」とよく聞かれます。
デナリ、デナリ。
確かに日本語ではあまり聞かない響き。

デナリがアラスカの国立公園の名前であることは前にも書きましたが、
そもそもなぜ私が恐れ多くもそんな名前を名乗るようになったのか。
アラスカから別の場所へ飛ぶ前に、それについて描こうと思います。

それは私の最愛の猫、偉大な「空とび猫」の物語です。
デナリに出会ったのは、私が17歳のときでした。
留学当初、私はまたもやひどいホームシックにかかってしまって、
気分の沈んだ日々を過ごしていました。
寂しさが募った私は「猫を飼いたい」とお母さんに相談してみたのです。
留学生がペットを飼うだなんてよくも図々しい事を、と今は思うのですが、
一人ぼっちだった私はその時
「自分と一緒に過ごしてくれる存在」が欲しかった。わがままな話です。

最初は反対していたホストマザーも最後はOKしてくれました。
その時の条件は3つ、
「子猫であること」
「ちゃんとしつけをすること」
「一緒に日本につれて帰ること」。
最初は「里親センター」を見てまわったりしたのですが、
なかなか子猫がいなくて子猫探しも難航していたそんな時、
ホストシスターのアリシアが
「友達の家の猫が子猫を生んだ」というニュースを持って帰ってきて、
私は嬉々として出かけてゆきました。



お父さん猫は黒いしま猫の短毛。おかあさん猫は茶色のトラ猫の長毛。
(ちなみにアラスカは寒いので雑種でも毛が長いのが多いです。)
生まれたばかりのやたらフワフワモジャモジャした子猫たちを目の前に、
私は興奮しながら1匹ずつと対話してみました。
子猫はどの子もとても元気で、にゃあにゃあと自己主張。

その時、わりと体の大きな兄弟達のおなかの下に、
1匹小さな真っ白な子猫がいるのに気がつきました。
他の子たちはみんな茶色か黒なのに、その子だけが真っ白で、
そしていかにも弱弱しく、泣き声も小さいのです。
その子がだるそうに私の顔を見あげたその瞬間、私の心は決まりました。
「この子にする」とその友達に伝えると、
彼女は「その子は一番からだが小さくて弱いし、
他の子の方がいいんじゃない?」と何度も言いました。
それでも私は、「この子しかいない」と彼女に言いました。
一人で生きようと頑張っているその小さな子猫と、
寂しくてつらかった自分を重ねていたのかもしれません。

そうして、その小さな毛玉はうちにやってくることになりました。
やってきた同志に最初にしてあげたことはもちろん、名前をつけてあげること。
名前をつけるとき、この不健康そうな子猫にこそ
「強そう」な名前をつけたいと思いました。
アラスカの大自然や壮大さをイメージさせるものにしたい、
という話になり家族で子猫の顔を見ながら
地名や川や植物の名前などをいろいろと挙げていったのですが、
いまいち発音しにくかったり、呼びにくかったり・・・
あれやこれやと迷っている私の目にふと飛び込んできたのが
Denali(デナリ)国立公園の文字だったのです。

北米最大の山、マッキンレー山のイヌイットたちの呼び名。
意味を調べてみると、The great one(偉大なるもの)とのこと。
偉大なるもの?!
猫のくせになんて偉そうなんだ!!と思いつつ、
このちっぽけでひ弱そうな猫にアラスカサイズの大仰な名前、
上等じゃないかと思いなおす。

そして、デナリはデナリになりました。
デナリがうちにやってきた日の日記を今読み返してみると、
こう書いてあります。

「なんと!今日はいよいよ、
うちに念願の!!子猫ちゃんがやってきました!!
うちに来てくれて、ありがとうデナリ。共に生きていこうね。」

2009年
ゆっくりと

AIR MAIL
from LONDON

第九話
空とび猫 デナリの物語<1>

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