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第八話 オーロラが鳴く夜



オーロラと宇宙クジラ

オーロラのダンスは いつも突然にはじまる
夜空に無数に浮かぶ星のひとつが ふいに輝きを増したかと思うと
たちまち夜空は光でいっぱいになるのだ

降りそそぐ光のカーテンの下
くるくる くるくる オーロラと一緒にダンスを踊る
光のカーテンは一瞬たりとも
同じ形にとどまることなく
ゆらゆらとその色を変えながら 地球と私をつつみこむ

その光の中では 誰も彼も
名前も形もなくなって ただの輝く点になる
過去も 現在も 未来もない
そして思う
この星は宇宙に育まれ愛されているのだと
そしてここにいる私も また宇宙に愛されているのだと
  27年は46億年の中では一瞬の一瞬のそのまた一瞬よりも一瞬だけれど
一瞬ばかりが星の数ほどあつまって 46億年が紡がれる

オーロラが鳴く きいい ん きいい ん と
まるで地球への熱烈な告白みたいに
光の向こうに何があるのか そこから何が見えるのか
27年が100年になったってきっと分からないけれど
地球の代わりに こっそり心で返事をしてみる

ハロー ハロー
この声が聞こえますか
こちら地球です
はじめてお便りさせていただきます
ええ ここはとても美しい星です
  もうすぐ春がやってくる気配です
そちらは最近どうですか
そこからこちらが見えますか
私のことが見えますか
どうぞくれぐれもお体には気をつけて

オーロラがその手を引っ込めたあと
ひっそりと輝く静寂の闇の中に
宇宙のかすかな息づかいだけが残る

私が今晩この場所にいたことが
40億年分の10分の
宇宙の記憶の一部になればいい

2009年
ゆっくりと

AIR MAIL
from LONDON

第九話
空とび猫 デナリの物語<1>

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