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第二話 準備、それは選択と洗濯



選択と洗濯

こんにちは。

旅についてのあれこれをつづる「デナリの旅の一語一絵」第二話ですが
ちょうど今たまたまシンガポールに来ていて 
まさに旅の最中にこの文章を書いています。

シンガポールは大きな都市なのにとても整備されていて、街並みが清潔。
(歩きタバコやゴミ捨てが駄目なのはもちろん、
なんとガムが禁止されているほど)
コンパクトサイズの中に実に多くの民族や文化が共存していて 
食も買い物も存分に楽しめる国。
そして常夏です。今も外は30度くらいあるのですが、
時々思い出したようにザバーッとスコールが降るので
まるでスチームサウナのようです。
それに比べてホテルや建物の中は空調が効きすぎていて寒いくらいなので 
こちらの人はよく着るものに迷わないなあ、と思います。
ちなみに「世界三大がっかり」のひとつとの名声(?)高いマーライオンは
期待を裏切らない(??)がっかり度合いなので逆に嬉しくなるほど。

本当は今回は私のはじめての旅について描こうと思ったのですが、
そんなわけでちょっと話題を変えて、「旅の準備」について。

突然ですが皆さん、準備をするのは好きですか。

準備、というのは何かにつけ面倒で、憂鬱になるものだったりします。
特に旅の準備は 直前になればなるほど 
ああ、あれもしなくちゃ、これもしなくちゃと大騒ぎになったりするもので 
だったら早めに始めればいいものを 
夏休みの宿題みたいに先延ばしにしてしまう。

私も気づけばやっぱりいつでも出発前日になっていて
足りないものを買いに走り回ることになります。
でも、そうやって洋服や細かいものたちに埋もれながら いつでも思うのです。

旅に出るとき、荷物はもちろん少ない方がいい。
誰だって、なるべく軽やかに旅をしたいものです。
だから、考えに考える。
自分にとって「本当に必要なもの」は何かということを。

ひとつひとつ手に取りながら これは本当に必要かな?と自分に問いかける。
ひよこのオスとメスを選別していくみたいに
  まずは何も考えずにひっぱりだした山のような荷物を
いる、いらない、いる、いらない
とふるいにかけてゆきます。

そしてこのふるいの網の目は、旅に出る時ぐんと細かくなる。
もって行ったのに全然必要なかった、というのはおもしろくないから。
私の持ち物たちの間で「デナリのカバンに入る選手権」があったとしたら
(ないけど)日常生活の中のそれは県大会みたいなもので、
旅に出る時はオリンピックのようなものなのです。

そうして余計なものがどんどんそぎ落とされていくと
自分という人間が、最低限必要としているものは何か、
ということがシンプルに見えてくる。
いかに普段、自分が
「あればあったで良いけれど なくても何とかなるもの」に囲まれ、
それらをくっつけてずるずる引きずって生きているのかという事に
気づくことが出来ます。

旅の準備は、選択と洗濯。

選びぬいたものをカバンに詰めてゆく選択の行為は
家を空ける前にたまった洗濯ものを片付けるということ以上に
普段の自分の生活そのものを 洗濯して一度真っ白に戻す行為に似ている。

だからカバンをのぞけば その人自身が分かる。
カバンの中身、それがその人のザ・シンプレスト・ライフ。
自分が、生活に何を一番必要としている人間なのかが分かります。
中身はなるべく少ない方がいい。
空いた空間に その分思い出と体験をいっぱいに詰め込んで
帰ってこられるように。
形はないけれど それが最も重くて大切な荷物。

旅の準備が憂鬱な時、「何か忘れているものはないか」と不安になったりする時、
もしも目の前に横たわるこの大きな岩のようなスーツケースじゃなくて 
小さなハンドバッグひとつで旅に出るとしたら 何を入れるかな?と
自分に問いかけてみることをおすすめします。

私だったらきっと、紙と、色鉛筆と、本を持ってゆく。
それだけで十分、十分なはず。

どんどんつきつめてゆくと
最終的には パスポートとお財布さえあればなんとかなるという
結論に達するのです。

なんだ、手ぶらでいいじゃないか。

2009年
ゆっくりと

AIR MAIL
from LONDON

第九話
空とび猫 デナリの物語<1>

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