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注意 この手紙は読んでから食べること。

第五回通信 ここがヘンだよやぎの家

黒やぎさま
ようやく夏めいてきましたね。
今年のお盆は実家に帰られるのかしら?
私は今年のお盆は帰省しないことにしました。
そのせいなのか、最近ふと、
実家の家族のちょっと変わった些細な習慣を思い出して
懐かしい気分になることがあります。

白やぎ家では、出かける直前にボタンが取れているのに気づいて
針仕事をしなければならない、というようなとき、決まって
「たびだにごめん」
というおはらいのおまじないを言わされます。
出発前の針仕事は縁起が悪い、ということから来ている習慣なのでしょうね。
亭主関白な父親がこのおまじないを言わされているのを耳にすると、
思わずぷっと吹き出してしまいます。
たびだにごめん、たびだにごめん。
思い出すとふとつぶやいてみたくなることばです。

それから、うちの母で思い出すのが、「思い出し謝り」。
思い出し笑いをする人、時々いますよね。あれの謝罪バージョンです。
「いえ、あの、ごめんなさい。あーごめんなさい、ほんとにもう」
車に乗っていて運転席の母がそうつぶやいているのを耳にするたび、
いったい誰に謝ってるんだろうと車内を見回した記憶がありますが、
なんとなくその気持ちがわかるようになった今、
私も大人になったんだなあと思います。

しかし、ちょっと変なのはあながちうちの家だけではありませんでした。
隣の家の40歳前後の一人息子は、
家の庭の木についている虫をピンセットで取って
瓶に集めるのが趣味でしたし、
反対側の家のご主人は、毎日夕方になるとお風呂に入って
30分近く大音量で鼻をかみ続けるのが習慣でした。
畑の向こうの家のおばさんは、自分ちの娘が遊びに加えてもらえないと
金属バットを持って殴りこみに来たし、
夏の暑い日に庭の窓を開け放しておくと、幼なじみがふらっと入ってきて
いつの間にかうちで一緒に夕食を食べたりしたこともよくありました。
そんな愉快な仲間たちに囲まれて私は育ったのでした。

黒やぎさん家のちょっと変わった習慣も聞いてみたいです。
歴史好きな黒やぎさん、自分の家の歴史も少しだけ掘り起こしてみてください。
ではでは。
白やぎ 拝



拝啓 白やぎさま
白やぎさん、お手紙ありがとう。
この間白やぎさんに買ってもらった
「フランス反骨変人列伝」、面白かったですよ。
死刑制度根絶を唱えた死刑執行人サンソンの話や、
「ギロチンの恋人」と呼ばれた犯罪詩人ラスネールの話など、
歴史が生み出すパラドックスが柔らかい文章で書かれていて、
人間ってつくづくおかしな生き物だなぁと思いました。

さてさて、本題の「ここがヘンだよ」ネタ。
黒やぎ家には、母だけが使う謎の言葉があります。
それは「素敵もない」という言葉なんですが、
白やぎさんはどこぞで耳にしたことございませんか?
凡例を挙げて説明しますと、「おやまあ。そんな素敵もないワンピース着て、
どこに出かけるの?」というような使い方をします。
どうやら、「それ、ものすごくイケてるよ!」「超COOL」
というようなニュアンスの言葉らしく、
主に感嘆詞とともに使われることが多いようです。
幼少の頃、ピアノの発表会で一張羅を着たら、
母が件の「素敵もない」を連発したので、
「結局素敵じゃないの?素敵なの?どっち??」
と子供心にうっすら惑乱したことを覚えています。

姉から聞いた乞食株式会社の話も、
初めて聞いた時は狐につままれたような気がいたしました。
姉曰く、「乞食株式会社は、サラリーマンが勤務するれっきとした企業。
おじさんたちは自分の担当区域を割り当てられると、
該当地区の公園に赴き、公衆便所でスーツからボロに着がえねばならない。
そして周辺の家々を巡り、物資を調達してくるのが使命」なんだそうな。
私が乞食株式会社の存在を知ってから、かれこれ十数年になりますが、
いまだにこの会社を知っている人を見たことがありません。
果たして本当に東証一部上場しているのか否かも不明ですが、
もし本当にこんな会社があったら、ちょっとのぞいてみたいです。
きっと、北杜夫氏の「さびしい乞食」に出てくる
御貰固呂利(おもらいころり)みたいな人が
勤めているに違いありません(断定)。

私個人としては、「素敵もない」にしろ「乞食株式会社」にしろ、
我が家でのみ通用する都市伝説みたいなものだと思っています。
それにしても、次々と珍情報を吹き込む我が家族は、
けっこうキテレツな個性を持っているんじゃなかろうか。
「いつも私のことを変人呼ばわりするけれど、世の中普通なんてないだろ」
とひとりで納得している今日この頃です。
それでは、近いうちにまたお会いしましょう。
草々頓首

第七回通信
やぎの怖いモノ

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年末年始事情

第五回通信
ここがヘンだよやぎの家

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