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(3)「いざ、鉛筆工場へ」

やってきました、東京都荒川区は町屋。

中小の鉛筆工場が20社近くあるという町……
そうです。
「マイ文具をつくろう!」の第一弾として
 えんぴつ を作ることにしました。



個展「オオノ文具店(仮)」を開催するにあたり
オリジナル商品も製作しようと考えたら
当然のことながら、とてもお金がかかりそうで……
このタイミングで文具制作はむずかしい、かも?

一番の見せ場(と思われる、というかメインのはず)の
「絵」を制作するため、そしてその設営にお金がかかるので
グッズに予算をかけられないのが実状。

いろいろ検討した結果、
低予算で制作できそうな気がする、えんぴつに決定。
私が絵を描くときに、なくてはならない道具のえんぴつ。

「マイ文具がほしい!」という欲求に対し
とても自然な流れでもあるように感じられたので
イメージもすぐに浮かび、即行動。

インターネットで検索したら
「荒川区の鉛筆工場一覧」というページにたどりついた。

どこから電話をかけたらいいのか、
名前からはまったく検討がつかなかったので
一覧表のとりあえず上から……
ではなくて、下からアポイントメント。

(我ながら「あまのじゃくだなぁ」などと
 そのときは何気なく思うだけだったけれども
 これがよい結果につながったのを、のちに知ることになる)

1社目は話し中、2社目でつながった。

下町ならではな気さくでとても明るい、
そして思いのほか丁寧な対応でびっくり(失礼)。
こちらが企業ではないので、取引としては
あまり話を聞いてもらえないかも……と思いこんでいたから。

そしてまたまたおどろいたのが

「どのような感じがご希望なのか
 とりあえず、こちらに来ていただいてお話ししましょう。
 工場も見学してもらうこともできますし」

とお申し出てくださったのです。

うわぁ!!!
鉛筆ができるまでを見ることができるなんて。

電話に出てくださった方があんまりに親切だったので
他社へ連絡をしたり、見積を取り寄せるなど
そんな気持ちはすっかり頭にはなくなっていて
すぐに「工場見学日」を約束してしまった。

鉛筆工場……!



東京メトロ・千代田線(もしくは京成線・都電荒川線)
町屋駅から徒歩15分。
駅から続く商店街をぬけて、住宅街の小道に入ると
ひっそりとあらわれた、小さな工場。

工場と書いて『こうば』と読ませそうな佇まい。
古く味わいのある焦げ茶色の木造たてものの奥の方から
連続した機械の音が少しだけ「かたかた」と聞こえてくる。

なつかしい感じの引き戸を前に、ガラガラと開けた。

「こんにちはー」

(4)



塗料のにおい。
小さなベルトコンベアで運ばれていく、木片。
そして、機械の音……

まわりには、名入れ用の箔の束だとか、
古くなった定規や、もう、色んなものが
それぞれ必要な場所のようなところに置かれている。
きっと長い年月の間にベストなポジションをたどりついて
それがスムーズに機能を果たしている、そんな感じ。

当日、温かく迎えてくださったのは
M製作所の社長と跡を継がれている息子さん。

さっそく工場の現場に通され、
これがどの過程のえんぴつか、また塗装についてなど
ひと通りの説明をいただいた。

一つの鉛筆を制作するのに、120という工程を経て完成するそう。
まずその事実にびっくり。
だって1本100円前後のものなのに。

(だから儲からないんだよ、と社長は笑顔で付け加えた)

おどろきは、まだつづき、

その120工程を細かく分業する生産の仕方が一般的な現在は
それぞれの技術と知識に長けている技術者はいても、
全行程を知り、そして制作できる会社・人は
日本にはM製作所の社長さんしかいないとのこと。

しかも、M社長さんは国際的な活動にも貢献されていて
アジアの地域(マレーシアや中国など)の鉛筆工場に
アドバイザーとして派遣されるほど方らしく
現地の人々鉛筆作りのノウハウを伝えているのだそう。

一般的によく知られる、大手の鉛筆会社より
M製作所はずっと小さい規模の工場だけれども
なんだかすごいところに来てしまっているのかもしれないぞ、と
自分がいる場所にも、ただただ、おどろき続けるのであった。




さて、今回の目的、えんぴつの制作についての打ち合わせ。
どんなかたちで、どのくらい作りたいのか、と聞かれ

色やかたちはこうで、ロゴはこう入れたいと
事前に用意したラフを見せながら説明し、
自分のイラストレーションの個展に
仮想の文房具店を作って用意したいものだと話す私に
社長は、やわらかな笑顔で うんうん とうなずき

近いタイプのえんぴつをサンプルとして出してくれて、
ロゴのサイズやロゴを入れるための泊の説明を
くわしく、具体的に話をしてくださった。

そして数の話になり、
個展などで売れる、これから自分がさばいていける量は
おそらくこのくらいだろうなぁと

「300本、500本くらい、……でしょうか……」

と、心許ない数字に言葉を小さくしながらいうと
笑いながら社長さんが言った。

「あんた、うちに来てよかったねぇ。
 うちは少ない数でも作ってあげるけど
 ほかの会社なら、だいたい10万本が最小ロットが相場だよ」

じ ゅ う ま ん ぼ ん !

部屋に積み重なった段ボールを想像……

ムリ。

はたまた、最初に電話した会社に
「弊社は10万本以上しかお引き受けできません」と言われたり
「300本?...ふっ(と鼻で笑われる)」なんて扱われていたら、
えんぴつを作ることを、あきらめてしまっていたと思う。

そんなこんなで、快く引き受けてくださる社長に
あまりにも少ない本数でお願いするのは
申し訳ない気持ちでいっぱいになり、考えたすえ、
本数は2種類を1000本ずつ、計2000本に。

鉛筆の制作上できることを丁寧に説明してくださったおかげで
デザインもさらに絞り込め、完成する日程が見え、
個展にならぶえんぴつがイメージされ

どきどきとワクワクがやってきた!

そして、今回の一連の出会いのタイミングとご縁について
おおげさかもしれないけれど、感謝してやまない一日となる。

町屋駅へ向かう帰り道が、とても早く感じられた。

【04】
食べてしまいたいほどの、
可愛さならば

【03】
ゆうぐれ、いちばんぼし

【02】
あけまして
おめでとうございます

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