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第三回 ちょっと危険な出逢い

旅に出ると、想定外の出来事が突然やってくる。
2003年夏。フィリピンの首都マニラから飛行機で1時間、
さらに船で2時間進んだところにある、小さな島、シキホール島。
島の主な交通手段は、サイドカーのトライシクルと、軽トラのジプニー。
どちらも午後4時には営業を終了してしまうことは知っていた。

その日は、気になるResortを下見に行った帰りだった。
起伏に富んだ地形を活かしたその簡素な施設を見てまわる間に
予定以上に時間が過ぎ、帰路についたのが3時30分。
「よかった、4時までには、あと30分ある。」
まだトライシクルか、ジプニーが通るだろうと
ジプニーステーションがあるラレナ方面へ向かって歩いていた。

ラレナで乗り継いで、滞在先へ戻るはずだっだ。
しかし10分歩いても、車1台通らない。
20分歩いても、車どころか、オートバイさえ通らない。

そして営業終了の4時を迎えてしまった。
それでも町に戻っていくジプニーが、1台くらいは走るだろうと
山道を急ぎ足で歩いたが、人っ子一人すれ違わない。
聞こえてくるのは、山鳥やセミの鳴き声だけ。
「このままではラレナの町まで十数キロの山道を歩くことになるのか!」
なかばあきらめながら、歩いた。
その時、1台のジープが近づいてきた。

なんとなく手を振ってみると、10Mほどして止まってくれた。
「ラレナに行きたいが、近くまで乗せてくれないか」
と、思い切って聞いてみた。
後部座席の男性が「乗れ」と手で合図してくれたので
すぐに乗り込んだ。

とりあえずお礼を言おうと、相手の顔を見て、血の気が引いた。
そこには、K1の角田とプロレスの藤原組長を足して2で割ったような
風貌と、独特のオーラを発している男が座っていた。
こんなフィリピンの田舎には不釣り合いな、パリッとした服装に
なぜか、アタッシュケース。

平静を装いながら、お礼を言いながら、
時間つなぎと動揺を隠すための話をする。
どこから来たと聞かれ、
「東京」と答えると
「自分の妻も横浜の店で働いていた」という。
「え〜。何の店?横浜のどこ?」
と、頭の中でいろんな妄想がぐるぐると駆けめぐりながらも
「横浜ですか。いいところですね」
と、とりあえず相手の気分を害さないように、肯定的な会話を重ねようと
ダイビングと休暇でフィリピンを旅行していること、
ジプニーを待っていたが、なかなかこないことなど、あれこれ話した。

「このあたりでは、人がすくないと、
3時頃にはジプニーも仕事を終わることがよくある」
と男は教えてくれた。道理でこないはずだ。
そうこうしているあいだに、車はラレナの港に着いた。
彼は、フェリーに乗ってセブ島へ行くようだ。
そして、「自分は、この船でビジネスに行くので、もう今日は車は必要ない。
自由に使ってくれ。運転手にもそう伝えておいたから」と言い残して
急ぎ足で、フェリーに乗り込んだ。
彼を待っていたかのように、彼が乗り込むと、
すぐにフェリーは岸壁を離れていった。

若手の構成員のような運転手が、「シキホールまででいいのか?」と聞く。
滞在先まで教えるのは、ちょっと不安なので
「シキホールの市場に用がある」と言って、市場へ向かってもらった。
その間、運転手は、
「ダイビングか」「どこに泊まっている」と繰り返し聞いてくる。
来られたら困るので、適当な宿の名前を言い、その場をごまかした。

30分ほどで、シキホール市場へ到着。
いくら請求されるか、ドキドキもので聞いてみる。
法外なことを言われたら、大声で市場の人を呼ぼうと考えていた。
するとドライバーは、「これはボスからのプレゼント」という。
構えていた分だけ拍子抜けした。
うれしくて、何度もお礼を言っていたら
「じゃ、俺にチップをくれ」と言いだした。
ジプニー相当額の2倍、50ルピア渡した。
ちょっと不満そうな顔で「Thank you」と言い残し、去っていった。

ほんの1時間くらいの出来事だったが、
とてつもなく長い時間に思えた。
ようやく、普段の自分を取り戻し、
市場の雑踏がフェードインしながら聞こえてきた。

終わってしまえば、これまでの恐怖心がおかしく思え、
ひとまわり旅慣れたような、自分を感じていた。
にやけた顔が、すこしのあいだ戻らなかった。


楽園探検隊のお気楽情報
002 誰にでも楽園
「ハワイ」<2>

楽園探検隊のお気楽情報
001 誰にでも楽園
「ハワイ」<1>

第七回
「冒険」へのスイッチ。
達人は大観す!?

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