48　昔話　＜3＞

自分の昔話をする人間にはなりたくないと、10代や20代の時は思っていたものだ。
しかし、考えてみるまでもなく、現実に生きて来た時間の事を喋るなら、それはいつだって昔話なのだ。

＜世界＞

6年間
小学生の僕の世界は
この中にあった
つまり
北は空掘商店街まで
南は玉造神社まで
東は谷町筋まで
西は心斎橋筋商店街まで

そこから向こうのことなど
思ったことはない
来る日も来る日も
その世界で
子供の時代を生きた

高学年の時
自転車が足がわりになり
少しだけ世界が広がって
大阪城まで行くことを覚え
道に戦車が走るのを見たり
お堀の石垣を伝って
お堀下に降りたりした

それでも世界の中心は
住まいがある社宅であり
歩いて５分ほどの小学校や
神社や銭湯や商店街であることに
かわりはなかった

今でも脳裏には
世界のマップがあり
社宅を出て右に行けば
左に行けば
裏に回れば
と自在に行き来することができる

社宅を出た目の前突き当たりの
扇雀飴の工場から出る湯気の
甘ったるい匂いを思いっきり吸い込んで
さあ
今日はどこへ行こう

＜じゅんぺい＞

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