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「肥大する過去ログ」(2)

ジャック・フィニィのノスタルジー
 書いたのはジャック・フィニィ(Jack Finney 1911-1995)。
 「盗まれた街」(原題:The Body Snatchers タイトルからおわかりの通り映画「SFボディースナッチャー」の原作)という「宇宙人侵略」を題材にした作品が有名だが、映画「スティング」を思わせる軽妙なエンタメ作品とも言える「五人対賭博場」や「完全脱獄」も秀逸で、才能の豊かなことはこの作風の多彩さからもわかる。

 しかし何と言ってもこの人の根幹をなしていると思えるのは「ふりだしに戻る」に始まって遺作となったこの「時の旅人」に繋がる一連のNYを舞台としたタイムスリップ・ファンタジーで、これを僕は大学生の頃から愛読していた。僕ばかりでない。少なくとも僕の周囲の友人はみな読んでいた。

 それにしてもこのフィニイ氏原作の「ふりだしに戻る」、「夢の10セント銀貨」、「ゲイルズバーグの春を愛す」(すべて文庫で今も入手可です ご興味のある方はぜひ)……、この辺りの一連の作品は、かなり夢見心地な方法で19世紀初頭のNYへタイムスリップし、行った先で恋愛をしたり戦争を阻止するために努力する、というような夢物語ばかりで、現代の大学生に勧めたら鼻で笑われそうだ。

 これが当時の大学同級生の「一般教養」みたいな存在だったことを考えると、いかに70年代末のSF全盛期といってもいい時代だったとはいえ、ずいぶん「牧歌的」な大学生だったと思う。だからこそこんな職業を選んでしまったのかもしれないけれど、今となっては稀少な絶滅危惧品種です。大切にしましょう(笑)



 もっとも「時の旅人」はこの歳になって読んでみると、最後のスペクタクルの部分や過去世界で作ってしまった新たな人間関係の喪失と、それに対する胸の痛みのような部分はともかく、そこへ行き着くまでのフィニイ氏が生まれ育った時代のNY描写があまりにも多く、しかもノスタルジックな思いが強すぎてちょっとついていけない。

 大学生の時にこれを読んでいたらどうだっただろう。まだNYなんて行ったことない状態の若い脳みそだとやはり興味深いと思っただろうか?
今となっては知る術がないけれど、つい考えてしまう。

<つづく>

「ゆれる防衛本能」
(5)
見ざる聞かざる嗅がざる

「ゆれる防衛本能」
(4)
「無音」の恐怖

「ゆれる防衛本能」
(3)
音は知らせる

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