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「肥大する過去ログ」(1)
写真「終点」の話
アルフレッド・スティーグリッツというアメリカの写真家がいる。
1864年にNYで生まれ、19世紀後半から1940年代にかけて「ストレート・フォトグラフィー」という主張を掲げて活躍した人で、その陰影がきっぱりとしていてクリスプなモノクロの作品が僕は大好きだ。
「終点(The Terminal)」は冬のNYの街角に佇む鉄道馬車の様子を切り取った作品で、馬の口元や体から立ち上る蒸気の白さや、その足許で踏みしだかれてぐしゃぐしゃになった雪の路面の陰影が、モノクロなのにまるでその風景を今そこで見ているんじゃないかという錯覚を覚えそうになるほどリアルな作品である。
その「終点」が表紙になっている1985年に東京で開かれた「アルフレッド・スティーグリッツ展」のカタログは今でも時々思い出したように本棚から取り出して眺めることがある。それは特にどれかの作品を見たいと思うわけではなくて、そのカタログを眺めていると何かその写真展を見に行ったときの気持ちや驚きが蘇ってくるような気がするのだ。
田園風景や妻であるジョージア・オキーフのポートレイトもとても好きな写真だけれど、やはり僕が好きなのはNYの街角を活写した作品で、もう20年近く足を運んでいないとはいえ実際に僕が見たNYの街角を思い出させるような画像ばかりだ。
先日もそれを眺めていて思い出したのが、読み終えたばかりの「時の旅人」(原題は"From Time To Time")というファンタジー小説。思い出したのは当然で、現代から過去へと旅するタイムスリップの舞台が19世紀末のNY、文中に当時の街角を写した写真がたくさん引用されているからだ。
<つづく> |
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