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【短編小説】
「ハロー・イッツ・ミー」第二回

テーブルの上のノートPCには
ハード・ディスクドライブがつないであり、
そこに入っている5000曲あまりのファイルから
適当に選んでパワースピーカーで音楽を鳴らしている。
部屋で呑むときはいつもそうだ。

彼女が来たときはちょうどラリー・コリエルを聴いていた。
たしか「スタンディング・オベーション」だった。
https://www.youtube.com/watch?v=By0w4owdq6c

それが終わると次にオーバー・ザ・ラインの
「ドランカーズ・プレイヤー」を聴いた。
https://www.youtube.com/watch?v=L9JHlWAlarA

とても疲れているように見えたので比較的調子のいい曲を避けた。

その後、二杯目のラム・ロックを呑む頃になると、
アルコールが入って少し上気して疲れがほぐれてきたように
見えたので明るめの曲に、と
トッドの「サムシング/エニシング」のファイルをクリックした。

LPでもCDでも2枚組になっているアルバムは
通して聴くと90分近くあるけれど、起伏があってとても楽しい。
アルバムの終盤になる頃には二人ともきっちり出来上がっていた。
最後から4曲目になるのが「ハロー・イッツ・ミー」。
http://www.youtube.com/watch?v=N_25z8AoByw

それを聴いているときだ。

「この『ハロー・イッツ・ミー』って、まるで『オレオレ詐欺』の唄よね」

「歌詞知らないの? 英語、読めないの?」

コレがきっかけだ。
酒が入っているせいもあったか滔々と歌詞の意味を話し始めると、
しばらく黙って聴いていた彼女は不機嫌そうにコートを羽織り、
バッグを手に取ると部屋から出ていった。
夜中の2時だった。

トリタニは訳がわからなかった。
あれは……怒ったんだろうな。
そう思いながらシャワーを浴びて寝てしまった。

<つづく>

「ゆれる防衛本能」
(5)
見ざる聞かざる嗅がざる

「ゆれる防衛本能」
(4)
「無音」の恐怖

「ゆれる防衛本能」
(3)
音は知らせる

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