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【短編小説】
「コーヒーミル」第三回




 最初から読み直してみると、そこここに
おかしな表現があふれていることがわかった。
「各部の名称」にある表記には

「on/offスーイッッチー」、
「コーンセーントッ」、
「ボウディ本体♪」、


などと妙な「音引き」や「拗音・促音」、「記号」がついているし、
蓋を開いた中にある、豆を粉砕するブレードに至っては
引き出し線の先に

「正宗(長船與三左衛門祐定・作)」

などと書いてある。だんだん腹が立ってきた。
 「使用上の注意」に至っては、箇条書きで

「塗れた手でコンセントを触らない」
「超時間onスイッチを押し続けない」


という普通の(とはいえそこはかとなく表記はおかしいが)文言に続いて

・早寝・早起きをすること
・呑み過ぎ注意一秒ケガ一生
・飲んだら乗るな 乗るなら飲むな
・お父さんお母さんを大切にしよう(by日本船舶振興会)


書いてるヤツは本当に現地社員なのか。
日本人じゃないのか。

 意味のないことを考えながらツール・ボックスを取りに行き、
ボックスとそこから出したドライバーを手に戻ってくると、
再びテーブルについてミルを手にとってひっくり返し、底部を見た。

 円形の底部は金属のプレートが
5本のプラスネジで固定されている。
さっそくはずしてみると金属プレートが
ザシリ、という音を立ててはずれた。
プレートの裏面にはIC基盤がついている。

 が、おかしい。
この基盤は本体部とつながるものが何もないのだ。
つまり……フェイクだ。
見ればけっこう細かい配線が施されているのに、
その作業はまったくの無意味ということになる。
なんのために……。

 本体側の内部をのぞくと、モーターと思しき
円柱状のパーツが内壁側に固定されてあり、
外部からの電源コードから二股に分かれたケーブルが
接続された基盤から出るケーブル2本がつながれている。
よく見ると、モーターのボディーに
何か小さい文字で書かれているのだが、
内部が暗く、しかも字が小さくて読めない。
ライト付きのルーペを工具箱から取り出して見て
やっと読むと細書きマジックでこう手書きしてあった。

  マブチ

<つづく>

「ゆれる防衛本能」
(5)
見ざる聞かざる嗅がざる

「ゆれる防衛本能」
(4)
「無音」の恐怖

「ゆれる防衛本能」
(3)
音は知らせる

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