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Vol.17
新年の抱負にかえて
-心の中に「刑事セルピコ」を-

 最近よく、世の中を取り巻く「分かれ道」の存在について考えているのです。ここでいう分かれ道とはつまり、「正義」と「悪」の二つの道です。

 名作「セルピコ」を知っているでしょうか?希望と使命感に満ちあふれた若い刑事「セルピコ」役を演じるのは名優アル・パチーノですが、彼は、NY市警にはびこる賄賂やさぼり、その他の悪行に愛想をつかします。この現状を正そうと彼は躍起になるのですが、賄賂のやり取りをしている同僚との軋轢はどんどん強まるばかり……ひどい目にあいます。しかし最後まで信念を曲げず、伝説の男になったという。まさに侍のような男です。ちなみにこれは実話に基づいた話なんですよね。すごい!

 この物語の構図を考えてみました。といってもものすごいシンプルで、つまり、セルピコ=希望・使命感→「正義」。その他の警官=汚職、倦怠感、怠惰→「悪」。そして「正義を貫くことは本当に大変なことで、悪に染まることは本当に簡単だ。だけどそれをやり遂げた」という物語なんですよね。

 この話は、見た人の心を強く打ちます。正義が悪に勝つ、もしくは、圧倒的劣勢にも関わらず、挑む!ということに人は感動するんです。また、自分の利を取らず、非合理的でも、信念やその他、大切なモノのために人にはできない選択をする人を人は愛し、尊敬します。

 他の多くの物語の構図もこの二面性を利用しています。
 恋愛モノであれば、主人公が、様々な苦難を乗り越えて、愚直にヒロインを愛し抜く。他の人を愛すればいいのにも関わらず。戦争モノであれば、死ぬというリスクを抱えつつも、友情や使命感によって戦地で勇気を振り絞って前に進む。適当に逃げまわっていれば生き残れる可能性が高いのに。

 話を戻しますが、前述のセルピコは20代でした。20代というのは仕事人の中では最も若い部類に入ります。若い仕事人が、その仕事に使命感や希望を持つのは至って普通なんですよね。でも、この判断を30代、40代、50代、それ以降になっても続けられるかどうかで人としての生き方が分かれてくるのではないでしょうか。人は30代にもなれば誰でも、世の中は美しいものだけで構築されている訳ではないと分かるし、正直だけでは損をすることがあるとも分かる。40代になればさらにその兆候が大きくなり、50代にさしかかれば老後の自分の生活が目の前をちらつき、安定した資産や権力への魅力が大きくなってくるのかもしれません。そして相対的に、むかし持っていたセルピコのような使命感や希望がかき消されてしまうかも知れないのです。

  この二面性の中で、ぼくらは生きているのです。
 我々の日常には、日々、そのように二手に分かれた道が立ちはだかります。
 その時、“どちらを選択するか”。それ自身が、その人の生き方そのものなのです。

 世界は多面的なので、どちらかの道が絶対的な正解ということはないでしょう。しかし、きわめて個人的な意見を言えば、やはり、正義を選択した方が長期的には幸福度が高いような気がします。ぼくは、何度も、悪や合理性を選んで、失敗を繰り返してきましたから。

 来る2013年も、いつもの年と同様、分かれ道が幾度も立ちはだかるでしょう。
 そんな時には、アンダーカバー(潜伏捜査)の為にヒゲをもじゃもじゃにはやしたセルピコの顔を思い出し、苦しく、辛い方、つまり正義の選択をできるだけ多く、選んでいきたいと思います。きっと間違いが少なく、美しい人生が送れると思っています。

高橋 大樹



HP「高橋大樹のマーケット放浪記」
http://hirokitakahashi.com/

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https://commodity-board.com/2011/05/post-6345.html


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