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Vol.4 復興は、人々の心の中で、すでに始まっている


 3月11日、東北地方の太平洋側を中心に、日本はもとより世界を震撼させる大地震が起きた。
 国内観測史上最大級のマグニチュード9。後に「東日本大地震」と名付けられるそれが起きた瞬間、僕は首都高にいた。羽田空港から新宿行きのバスに揺られているところだった。

 突然に発生した急激な横揺れを僕は最初、地震ではなく、バスの異常だと思い込んでいた。ぐわんぐわんと揺れるバスの中で、もしかしてこのバスはこのまま爆発してしまうのではないだろうかと、なぜか他人事のように思っていた。数秒経って、目の前のトラックが、「コトン」という軽い音を立てるような感じで、地面に倒れ込んだ。

 あまりにも非現実的な光景を前に、鼓動が早まるばかりで、声も出せなかった。
窓の向こうを見ると、電柱は大きく揺れており、首都高沿いの工場や会社からはヘルメットを被った人々が駆け下りてきていた。そこで初めて、これは地震なんだと認識した。

 しかしその規模の大きさに未だ思考は停止。突如として電話もメールも不通となり、その後はテレビによって、連日、津波によるすさまじい惨劇を見せつけられることになった。

 当初、数十と報じられていた死傷者は、あっという間に「何百」、「何千」となり、そしてなんの遠慮もなく「何万」という単位まで膨らんでいった。さらに福島第一原発では爆発が起き、メルトダウン懸念まで発生。地震による被災地でもないのに、都内でも、食料品やエネルギー製品の買い溜め現象が起きてしまっている。

 「情報社会」と呼ばれて久しいが、ここまで情報が不必要に交錯するものだろか。各メディアには、「原子炉」、「放射線」、「メルトダウン」、「チェルノブイリ」という、身体的な影響を懸念させる言葉が行き交い、人々は不安の連鎖に陥っている。

 18日現在でも、人々は混乱し、日本は当然、世界のマーケットも過剰に反応している。日経平均が下がるのは当然、原子力や保険関連の株式は恐ろしい勢いで売られているし、東電に至っては一時、地震以前の3分の1程度まで売られてしまった。円が高騰しており、投機的な外国人の買いによるものと報道されているが実際のところはよく分からない。

 そんな今、僕も人並みにもどかしさを感じている。自分にできる限りの義援金を提供し、節電をし、情報を追い、被災地の人々や、原子炉の内部にいる東電社員や、高い放射線濃度に向かって放水を行う人々に関心を寄せ続ける心持ちを持ったあと、果たして僕らは何をすべきなのだろうか。

 正直なところ、いま僕の中には二人の自分がいる。
 被災によって、一瞬にして「半端な努力では回復しそうにない国」になってしまった日本という国から「逃げようとする自分」と、「立ち向かおうとする自分」である。

 「逃げようとする自分」が言う。
 「今後、かなり長期的に日本経済はひどい状況に陥る。原子炉のビジネスモデルが崩れて、電力不足にあえぎながら高い原油を買いながら動かす経済の鈍化具合は圧倒的で、もしかしたらつぶれるかもしれない……これは、将来的には日本から離れたほうがいいだろう。今から、人脈をたどって海外にでも行こうか」

 真剣にそんなことを考える。実際、ここまで考えるべきレベルの話だと思う。極端な話、海外を拠点にしようと考えれば、これから何年も続く不況とは縁を切れるかもしれない。日本のいくつかの有名企業だって、社内共用語を英語にすると言って、地震が起こる前でも、国外逃避を考えていたのだから。地震によって徹底的に打ちのめされた感じである。

 しかしその都度、「立ち向かう自分」が言う。
 「仮にそうだとしても、微力ながら一人ひとりが経済を回せば何とかなるかもしれない。戦後の経済復興は、経験していなくたって、ぼくらのDNAに刷り込まれている。一致団結して、集中すれば日本は立ち直るはず」
 多少エモーショナルであることは否めないが、少なくとも、それは真剣な感情として僕の中にある。

 そして、きっともう答えは決まっている。
 僕は、後者を選んでいる。

 多くの人がツイッターなどで個人の情報を発信しているこの時代、大洪水のように流れる人々の感情を眺めていると、多くの人がぼくと同様の問いを持ち、そして後者を選んでいることが手に取るように分かる。
 普段、感情を間引きし、クールに人生を送ろうとしている多くの日本人は、今回の件で、自分がいかにして日本人たり得るかを再認識したことに、(不謹慎かもしれないが)、喜びを感じているのではないだろうか。僕は個人的に、本当に、いい機会だと思っている。

 この真剣な感情を絶やすことなく、同じ日本人として、真摯に復興に臨んでいきたい。

*
 最後に、今回の天災によって命を亡くされた方々のご冥福を心からお祈りいたします。そして愛する人を無くされた方々に深く同調します。一人でも多くの人が生き残り、希望のある人生を送れますように。

高橋大樹



HP「高橋大樹のマーケット放浪記」
http://hirokitakahashi.com/

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