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Vol.3 民主化運動に見る《震える世界》


むかし、イラクに行ったことがある。
2001年の2月、セプテンバーイレブンの報復と称して
アメリカが攻撃を仕掛けるちょうど1カ月ほど前に
2週間ほど滞在したのだ。

僕が同国に行くきっかけとなったのは、
木村三浩さんに知り合ったためだった。
木村さんは「一水会」という右翼の会を作っていて、
アメリカが嫌いだから《敵(アメリカ)の敵(イラク)は味方》
という理論でイラクの親善大使になっているという、
愛国者の間では有名な人だった
(ちなみに、僕は今も昔も完全なるノンポリである)。

その時のイラクには、
頭脳警察のパンタ氏、新宿のライブハウス「ロフト」創始者の平野悠氏、
著書『日本はなぜ世界でいちばん人気があるのか』が
ベストセラーになっている旧皇族の竹田恒泰氏、
大川興業の代表にしてお笑い芸人の大川豊氏、
カメラマンの初沢亜利氏、
一水会を結成した鈴木邦夫氏など多くの著名人が足を運んでいた。

現地で僕は、NGOに守られた「政府要人」という立場で街を歩き回った。
機関銃を持った兵士に追いかけられたり、
子供に石を投げつけられたりしたが、
まぁなんとか生きて帰ってくることができた
(数ヶ月後、日本人がイラクでテロリストに捕まって
首を切られた映像をyoutubeで見て、背筋に脂汗が滲んだものだったが)。




今、イラクを含む中東の民主化運動が激しくなっている。
原因は、「インフレ主導の経済的圧迫」と「長期化する政府の腐敗」である。
2月初旬、国連食糧農業機関が
「1月の世界の食料価格指数は7カ月連続で上昇」とコメントしたように、
穀物市場は過熱感を異常な呈しているが、
その要因は、ギャンブル性の高い投機マネーではなく、
需要と供給のバランス、つまりファンダメンタルズにある。

主要生産地の異常気象。
昨夏、ロシアでは小麦不作によって輸出が停止、
南米や豪州、カナダなどの主要産地でも大雨や洪水が起こり、
需要面では、急成長する新興国における需要の増加が目立ち、
需給はひっ迫している。

消費に占める食料品の比率が高い新興国では、
食料品価格の上昇は社会不安に直結してしまうため、
その不安の矛先は、
このようなインフレをヘッジ(回避)できなかった「政府」に向かう。
アフリカのチュニジアとエジプトの暴徒化した市民は
このような背景のもと形成された。
そしてそのあと、エジプトの「政権崩壊」に感化されたデモは、
ご承知の通り、リビア、バーレーン、イランなどに派生していっている。

目下の注目点は、「民主化運動が、中国でも起こるか?」というものだ。
中国では、2010年10月に消費者物価指数が4%を超えたことを機に、
約3年ぶりの利上げを敢行。
さらに年末に2度目の、翌11年2月には3度目の利上げを実行した。
しかし2月現在、インフレ率は未だ5%前後の高水準を推移している。

このように、中国の政情不安が表層化する下地は、実はもうできている。
もう少しで、何かが噴火するかもしれない。
巨大な社会主義国家の路上に、膨大な数の国民が集まるかもしれないのだ。

いま確実に、世界は震えている。

僕を含めた日本の若い世代は、この震えを味わったことがない人が多いと思う。
戦争も学生運動もテロもデモもボイコットも味わったことがない。
もちろん、それはそれで平和だし、有難いことだ。
デモには死者がつきものだから、
今中東やアフリカの路上で石を投げている人々から見たら、
平和すぎる日本はうらやましがられるかも知れない。

しかし、怒りを露わにして政府に立ち向かう人々は、
日本のような国で生きていくことが、
どれほどの退屈を伴うのか、知っているのだろうか。

あの当時、ぼくがイラクに求めていたものは、
おそらくそういった「震え」の一種だった。
少しでも、動いている世界の感触を味わいたくて、下世話だが、
アメリカに攻撃されようとしている危ない国に足を踏み入れた。
そして、空気を吸い、人と話し、国全体を味わおうとした。
それが僕がイラクに行った理由だった。

現在のリビアのような映像を見ていると、
僕はまた、その《震え》を体感したくなってくるのである。



HP「高橋大樹のマーケット放浪記」
http://hirokitakahashi.com/

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