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Vol.1 ”もう一つ”のタイ調査レポート


先日、生まれて初めてタイに行ってきた。
茶柱横町デビュー記念の今回は、その時のことを書きたいと思う。

ご存じの方も多いかもしれないが、
2008年、アメリカに端を発したサブプライムローンショック以来、
世界の経済は大逆転してしまい、
今や先進国よりも新興国の方に注目が集まるという状況になっている。

先進国は負債が多いし、成長余力が少ない。
反面、タイを含むアジア各国にはこれからの成長が大きく期待されている。

僕は今、執筆業の傍らある総合研究所でアジア諸国の経済を調査していて、
上司に「タイに行って現状を見てこい」と言われたわけである。

もともと旅行好きな僕は「喜んで!」と飛行機に乗り込み、
30度を超す熱帯に足を踏み入れた。
大量のバイクによる濃い排気ガスの匂いにやられそうになりながらも、
バンコクの現地アナリストとマクロデータの数値を照らし合わせた。

GDPの上昇、インフレ圧力の抑制政策、
FDI(外国直接投資)の急激な上昇などを見て、
「やっぱり、世界は確実に変化している」と強く感じた。
当然と言えば当然の結果だった。
上司へも「タイは想像通りの成長です」という文面を送った。

仕事がひと段落したあと、僕は遊びに出かけた。
バンコクの中心地からバンで1時間半ほど揺られ、
過去にアメリカ人が娯楽のために作った観光地「パタヤ」に到着する。
売春が合法で、特にヨーロッパやロシア人などに人気の地である。

僕は、海でジェットスキーに乗り、射撃場では45口径の鉄砲をぶっ放し、
街では常にビール片手にバイクにまたがり、頭をとろけさせていた。
世界の変化は疑いようもなく、
その事実は少なからず僕に高揚感をもたらしていたのかもしれない。

だが最後の夜、ぼくの気持ちは一変した。



翌日の飛行機に控え、ホテルの屋上のプールで大人しくしていた時のことだ。

数メートル先の浜辺で、小さな祭りが開催されていた。
多くの現地人が観光客が何十人も入り混じり、
酒を浴びるように飲み踊っている。とても幸福そうにみえる。
そこまではいい。

しかし、踊る人々の後ろには、現地の音楽ではなく、
アメリカの音楽が流れていた。
ぼくはその音楽を聴いた瞬間、
「世界はまだ変わってなどいない」と思い直し、非常に哀しくなった。

アジアにマネーが回ってきたとしても、
文化を作るのは先進国だという当たり前のことを再確認させられたからだろう。

今後世界の投資マネーがどうなろうと、
アジアの文化的なコンテンツが正当に評価されて先進国に逆流するなど、
おそらくあり得ない。

それはひどく屈辱的なことだが、
何かに隠されていて見えないようにされているから、
「経済が変わったら色んな事が変わる」と思ってしまう。

しかし、そんなわけはないのだ。

「アジアへのマネー流入は、経済的な希望と文化的な絶望の両面を伴う」

ぼくは上司に、そんな風に報告しようと考えている。



HP「高橋大樹のマーケット放浪記」
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