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世界とは一冊の本であり、旅に出ない者は同じ頁ばかり読んでいるのだ。
(古代ローマのキリスト教神学者、哲学者[アウグスチヌス]354〜430)

ひとりの人間として何ができるのか。見知らぬ土地で生きて行くために必要なこととは?
サバイバル社会を生き抜く知恵と経験のほとんどは旅先で身につけることができる。
ひとり旅は、無意識に「学び」「挑戦」「人間関係」をブラッシュアップできる最も贅沢な遊びのひとつだ。
ほんの1週間の旅でも、気づき、ひらめく自分と出会い、自己実現のための一歩を踏み出すきっかけとなる。


02 人間力を養う旅。



 ツアーに参加して旅行する人を「旅行者」、
 自分で旅を組み立てて旅する人を「旅人」と定義してみる。

 想像してください。見知らぬ国で乗車予定のバスが時刻を過ぎてもやって来ない。あたりは次第に暗くなっていく。まわりに建物らしきものはない。そんなとき、あなたならどうするだろうか。ツアー旅行客なら手配した会社相手にケータイ電話で「いつ来るのか」、状況を聞き出すことに必死になるだろうし、その対応次第では怒りを膨らませたり、場合によっては「帰国後にクレームを入れ、責任を取ってもらう」と完全に争う姿勢を見せつけ、相手の出方を確かめるかもしれない。

 それが同じ状況でも、一人旅、長旅をしていると、全く違った対応を迫られることになる。
 まず、旅の全責任は自分にあるということ。バスが来なくても、強盗に襲われても、そういう状況を選んだのは自分自身だということがはっきりしている。人のせいにできないと追い込まれた人間は、目の前の問題と真剣に向き合い、頭をフル回転させ、よりよい解決方法を無意識に探ろうとする。そうしなければより大変な事態になることを予測できるし、誰も解決してくれないこともわかっているからだ。

 ひとりの人間として試されている。そして不安や恐怖だけでは問題をいい方向に解決できないことに気がつく。気がつくまでの時間は人により違うし一度はパニックのまま朝を迎えるかも知れない。しかし助かろうと心から願えば、何か行動を起こしたくなる。そんな気持ちを呼び起こすのが旅の人間力だ。

 旅を続けていると必ずそういう状況に陥ることがある。ただ、人は一度体験してしまえば「経験値」という根拠の度胸が備わる。何度もそんな状況に遭遇していると、「トラブル」さえ楽しめるようになる。次はいつ遭遇するのか、ちょっと期待するようになる。『これから何が起きるのだろう』と不安を抱えながらもワクワクしている自分に気がつき、次第に楽しくなっていく。でもやっぱり怖い。でも萌え〜。感情が交錯しアドレナリンが吹き出し、エンドルフィンが旅人をランナーズハイの状態にまで高めていく。

 自分をいためつけることで喜びを感じる。これはまぎれもない「Mの体質」。
旅を続けられる人たちは総じてマゾなのだ。

 話を元に戻そう。バスは来ないし陽は落ちてあたりは暗くなっていく。バス停以外に建物らしきものはない。そんなとき旅人はその場で起こるであろう最悪の事態を覚悟しながらも、数時間後にはフカフカのベッドで気持ちよく眠っているイメージが頭を包みこむ。そして、そのフカフカのベッドへ向かうには、これからどんな選択肢をしたらいいのか考え始める。

 そこに一人の男が近づいてくる。ドラマの名傍役のように人が困っていると、どこからもなくふっと湧いてくる。世界中どこでもそうだ。「にいちゃん、どこまでいくんや」。 怪しい。どこからどう見てもまっとうに見えない男に、自分の旅を左右する重要な舵をにぎられていると認めるだけでくやしい。しかもこの見るからに詐欺師のような男は、自分が向かう町まで車に乗せて行ってくれるという。「本当に町まで連れて行ってくれるのだろうか」「途中山奥に連れ込まれ身ぐるみはがされて、捨てられるか」「ありえないほどのぼったくり宿で大金を奪われてしまうのか」。

1.無視して町へ歩き出す。
2.無視して、ひたすらバスを待つ。
3.怪しい男について行く。

 選択肢として、この3つがある。そこが日本なら「2.無視して、ひたすらバスを待つ。」が正解なのだが、これまで海外でこういう状況になると、まず翌朝までバスは来なかった。また、旅に時間や心の余裕がないと「1.無視して町へ歩き出す」を選択するだろう。そう,子供の頃から「知らないおじさんにはついて行かない」と教えられたとおり、4〜5Kmくらいなら暗い夜道を歩いて危険を回避するという選択肢を選んでいたに違いない。
 それが、ある程度旅を重ねて麻痺すると、あるいは最初から人を疑わない旅人は、半信半疑ながらその男について行くからどうしようもない。

 多くの人は、命の危険に関わる相手をかき分ける嗅覚を持っている。そして旅した時間や経験値により敏感になる傾向がある。「ヤバそうな奴」は、ヤバいオーラを出しているからだいたい避けられると信じている。
 いちばん微妙なのが「怪しい男」。連れて行ってやるといいながら高額のチップをせびる奴、コミッションの高い宿へ連れて行き、小遣いかせぎする奴。程度の悪さに差があるとしても命を取るほどの悪党でもない奴。海外で一番多く遭遇するこのややこしいタイプは、どんな国のどんな町にも必ずいる。それなら、暗い夜道を一人で歩く危険と比べてどちらがリクスが高いのか。間違っても、怪しい男と一緒なら、いきなり野良犬に噛まれたり、大きな穴に落ちたりする心配はない。

 簡単な挨拶を交わして、怪しい男の車に乗り込む。荷物を預かると言われてもかたくなに拒否して、膝にだいて乗り込む。そして,車は走り出す。町の方向へ向かって走り出したが、町まで連れて行ってくれる保証はどこにもない。

「どこから来た」
「ベラルーシ」(間違っても日本とは言わない)
「そんな国は知らんな」

「この国は初めてか」
「もう何度も来ている」(本当は初めて)

「どこまでいくんや」
「次の町に友達がいる」(いるわけがない)

「誰だ?」
「マイケル。親父が警察の幹部で。知ってるか?」
(質問をすることで受け身から攻めへ転換する)
「知らんな」(なぜか、ちょっと怒り気味になる)

 すこしの沈黙のあと、若干声のトーンが落ちてきたらシメたもの。
「じゃあ、これからマイケルの家に行くのか」
「今日は夜遅いし、明日行く」

 すると、怪しい男の声がちょっと明るくなり、
「それなら俺がいい宿に案内してやる」
「チープで、クリーンな宿か?」
「あまり高いなら、マイケルの家へ行くけど。親父は警察幹部だし」
(会話に関係ない親父の職業を挟む)
「いい宿がある。ノープロブレムだ」

 見知らぬ男の「ノープロブレム」が「ノープロブレム」だったためしは一度もない。ただ、ここまでの会話で命を取られる事はないと一安心する。しかも、微妙にイニシアチブが怪しい男からこちらに移ってきている。ここでさらに怪しい男に「その町に住んでいるのか」「家族はいるのか」「兄弟は何人いるのか」「仕事は何しているのか」根堀り葉堀り聞いてみる。対向車さえ来ない暗闇の中を、怪しい男に乗せられている恐怖を埋めるかのように質問攻めして間を埋めていく。

 そうこうしている間に町へ到着。そして男が案内する宿の前で車を止める。私はさっさと車を降り車から離れる。
「ここがその宿だ」
「いくらだ?」

「20ドル」
「高い」
「いい宿だ」
「高い。それならマイケルの家へ行く」

「わかった。もう1軒、いい宿がある」
「どこだ?」
「この先」
「じゃあ、歩いて行く」
「いや、乗せてってやるよ」
「いい歩く。すぐなんだろ」

 と言って歩き出す。男が車でついてくる。
「あのサインの宿だ」
「いくらだ?」

「18ドル」
「高い」
「高いけどいい宿だ」
「俺は、安くて清潔な宿を探している」

「わかった、俺が交渉してやるよ」
「いや、俺が自分で交渉する」

「俺はホテルのオーナーとフレンドだから顔が効くんだよ」
「俺に任せとけ」と車で先回りして、宿のスタッフと何やら現地語で話している。
「15ドルでいいそうだ」
「高い」
「お前はいくらならいいんだ?」
「10ドル」
「この町にそんな値段で宿はないぜ」
「じゃあ自分で探す」

「まあいいから一回部屋を見てみろよ」
 仕方なく鼻歌まじりで部屋を見るふりをするが、本当はクタクタ。15ドルなら全然問題ない。部屋は古いがきれいに掃除されていて、窓もあり、風通しもよさそうだ。早くベッドで横になりたいところだが、ここは最後の一発逆転、クロージング作業が必要だ。このままではこの町にいる限り、自分はこの宿に15ドルで泊まった男というラベルを貼られてしまう。怪しい男は私を15ドル出す男として話を持ちかけてくるだろう。

「10ドル!」
「14ドル!」

 わかった。13ドルで手を打とう。と、こちらから持ちかける。
 男もしぶしぶ承諾。

 部屋の鍵をもらい、男と別れる。
「明日は観光するかい?」
「明日はマイケルの家だ」
「車がいるだろう。朝迎えにくるよ」

「いらない。自分で行く」

「そう言うなよ、トモダチだろ」
「今日は疲れたから寝る。おやすみ」
 と言って、本当にトモダチなのかと錯覚するほど自然に別れる。さっきまでのあの恐怖はなんだったんだろうと笑えるくらいにあっさりと怪しい男は帰っていく。

 翌朝、レセプションで部屋代を聞いてみた。
 12ドル。

 あなたは、「1ドル、ボラれた!」と思うだろうか。
 それとも「暗闇のバス停から1ドルでタクシーに乗り、町で数ある宿の中から
そこそこの宿に泊まれた」ことに満足するだろうか。
 そして、「ベラルーシ人と言い張るケチな日本人は、なかなかお金を使わない難儀なカモ」という栄誉ある称号をもらい、その町に滞在中、ずっと怪しい男が観光につきあってくれたり、安くおいしいローカル食堂へ案内してくれたりする。
旅の途中でそんなことに遭遇しながら、数日過ごした町を後に旅人は、次の国をめざす。


【本日のワーク】

この話には、あなたの夢を実現するために必要なノウハウが隠されています。
あなたがこの話から感じたこと、気づきを紙に書いてみましょう。
いくつの気づきがありましたか。まわりの人と話ましょう。
ブログで発表するのもいいです。

普段の生活に応用できる何かをつかめたら、あなたにとっての財産となります。 「何かを学ぶ」と「学んだ事を伝える」を1セットにして行動すると、頭の表面でうろうろしている「学び」が、体の中にすっと入ってきます。さっそくためしてみましょう。 次回解説します。 では。

02
人間力を養う旅。

01
フランス・パリの
モグリ宿にて

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