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006 たくさんの愛

 去年の4月の終わりから5月の始めの3週間。わたしはインドに旅に行った。インド旅行はわたしにとってすべてが新しく、とても力強く、すてきな国だった。

 わたしはAshram (ヒンドゥー教のお寺) に滞在していて、そこで9歳の男の子と出逢った。はじめ彼は、わたしに片言の英語で人懐っこく近寄り何枚かの絵を見せてくれた。紙には電車や人などが描かれていてとても上手だった。それから彼は必ず夕方に現れるようになりわたしたちはベンチで一緒に絵を描いて遊んだ。一見仲の良い友達。でもいつも必ず最後にわたしにお金がほしいとねだった。
 彼がどのくらい貧しい子だったのかわからない。彼はぼろぼろであったけれど靴を履き、穴があいていたけれど服を着て、2日に1回ちゃんと着替えてやってきた。



 彼がおねだりするお金はたかが10INRとか20INR日本円にしたら約20円〜30円とか約40円〜60円くらい。日本人のわたしにとっては毎回逢うごとにあげたとしても何でもないような額。
 でもわたしはどうしてもその子にはあげたくなかった。なぜならわたしの考え過ぎかもしれないけれど、彼が人から簡単に物をもらえると思いそういう人生を歩んでほしくなかったから。
 ただ、世の中のいろいろな問題はそんなに単純で純粋なものではない。だからそれは正しかったのかわからない。もしその程度のお金で彼が笑顔になり幸せになれるのであればもしかしたらあげた方がよかったのではないかと思うこともあった。

 ある日、彼の顔はほんとに悲しく、切羽詰まったような風でお金を必死におねだりした。わたしが疑問に思い、”Why do you need maney for? If you get some money, What do you want to do? (何のためにお金が必要なの?もしお金をもらったらどうしたいの?)”と彼に聞くと彼はただ”give mom." "Home"と答えた。

 彼には兄弟もいるらしく兄弟の話しも時々してくれ、特に妹は小さく彼がかわいがっているみたいだった。
 彼は毎日Ashramに来てこんなお金もくれない一緒にいても徳のないわたしを見付けるたび"Rina!!"と声をかけてくれわたしたちは一緒に絵を描き、彼は”Come dinner"と自分の家で夕食をと誘うのであった。

 わたしが日本に帰らなければいけない日の前日、彼はいつものように現れて一緒に絵を描いて過ごした。わたしは彼に日本に帰らなければいけないことを必死で彼に説明した。でも彼はわかっているようでわかっていない。”I go Japan Rina!
Zoon.(ぼくも日本にいくよ!ブーン!)"と飛行機を手で作って飛ばせてみたり、”Come dinner tomorrow!(あした夕飯に家に来て!)"と笑顔で誘ったりしている。わたしが”I'll be Japan tomorrow night.(わたしは明日には日本だよ)"と言ってもわかっているのかどうかわからずだんだんわたしは別れが悲しくなり涙が止まらなくなってしまった。
 すると彼は”Rina is crying."と言って少し困った様子で、でも笑顔でわたしの顔を描きわたしの顔に次々と涙を描き加えた。さらにポケットから2INRのコインを取り出しそれと一緒にわたしにくれた。わたしはとても複雑な思いでさらに涙を止めることは出来なくなりひたすら子どものように泣きながら、手元にあった日本のコイン110円を彼に渡した。すると彼は興奮した様子で”How much is this? 10INR? 20INR?" と聞いた。わたしはそれに対し、”These are Japanese coins. That's very rare. You have to keep these.(これは日本のお金で珍しいから取っておかなきゃだめだよ。)”と話した。
 その後、わたしはさらに彼に20INR渡し"I pay for your drawing. When you can draw well, You can get some money from these. So, you have to keep
drawing!(わたしはこの絵に20INR払うね。もしあなたが良い絵を描いたらお金をもらえるから絵を書き続けなきゃだめだよ。)"と伝えた。最後にわたしは彼を抱きしめてさよならした。彼は最後までわたしを笑顔でみつめてくれいた。
 わたしは飛行機の中でも、日本に帰国後もしばらく彼が描いた絵をみるたび涙がとまらなかった。

 ひとりの子どもを育てるには村中の努力が必要だ。
                -オハマ族の格言-
 こどもたちを抱きしめることは聖なるつとめ。
                 -部族共通-

 日本にはStreet Childrenはわたしの知る限りあまりいない。ほとんどの子どもたぶんごはんを毎日食べることができて、義務教育までの学校に行くことができる。 これは世界でみたらあたりまえのことではない。世界中には食事を十分に食べることができない子ども、学校に行けない子どもがたくさんいる。
 もちろんこどもにとって教育とかごはんはとてもたいせつ。もしみんなが十分なごはんと教育を受けられるようになったらとてもすてきだと思う。
 でも困難な状況で育ったこどもはとても強い。自分で生き抜こうとするエネルギーに満ちている。だからどちらが良いとか悪いとかかわいそうとかは一概には言い切れない。
 そんないろいろあるわたしたちの生きる環境はみんなだれもが簡単に選ぶことはできないし、変えることだってむずかしい。
 でも愛は? お金がなくてもあげることができるし、お金があってもあげられないことがある。この世にいるこどもはみんな愛で満ちている?
 すべての子どもには愛が必要で、愛のいらないこどもはいない。
 たとえ自分のこどもでなくても愛をわけることはできる。
 愛をたくさんもらったことがある子は人にも愛をわけてあげられる。でも愛をもらったことがない子は何が愛なのかわからない。時々しかもらえない子はそれを独り占めしようとする。

 子どもは生まれるときすべてにおいての選択肢はない。まっしろ。だから彼らがどんな状況で育って来たのかどんな人たちに出逢ったのかということは彼らにほんとうに大きな影響を与えるということをわたしたちは十分に理解して彼らとともに過ごさなければいけない。
 わたしたちが彼らにいろんな色をつけていく。
 わたしたちには大きな責任がある。

 愛をそそごう。
 たくさん。
 たくさんもらった愛は心の中に満たされあふれ出て周りの人も幸せにする。

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