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井上あきら習作篇 その三十八 当季雑詠


「酔芙蓉」
鉄橋の涼しきリズム鋲の列


禅堂の涼しかりけり四半敷


大西日カスバのやうな大阪市


風鈴や主は古りし顕微鏡


夏のれん墨薄くして「う」と一字


缶こんと蹴上げりゃきらり閑古鳥


協作や蟻の巣穴の断面図


夕焼やコンテナの錆赫々と


不発弾なれど信管酔芙蓉


群青の遠近法や終戦日




<字句補足説明>
【本稿の季語の説明については その多くを角川書店編
「第三版俳句歳時記 夏の部 秋の部」によっています】

今回の主題は「酔芙蓉」(すいふやう)
昨日 八月七日は二十四節季の立秋(りつしう)
暦の上では秋の始まり 実感としては 夏本番
秋の季語の句も登場
夏の最盛期に秋を感じる微妙な時期
暑苦しさついでに言葉の定義(Yahoo知恵袋調べ)
夏 日 最高気温25度以上の日
真夏日 最高気温30度以上の日
酷暑日 最高気温35度以上の日
熱帯夜 最低気温25度以上の夜(倉嶋厚氏の命名とか)

しかも八月は日本にとって忘れ難い最も暑く長い月
1945年(昭和20年)
八月六日は広島に原爆投下された日(現 広島平和記念日)
八月九日は長崎に原爆投下された日 (現 長崎原爆の日)
そして
八月十五日は敗戦の日(終戦記念日・終戦日)と続く
八月十五日が月遅れの盆というのも奇しき縁
日本人の心の底のものが 戦争終結にむかわせたともいえる
忘れようとして忘れられないことを刻印し
見えない気配を感じること
いまも絶唱している 蝉には及ばないが
蝉に教わりながら
書き留めてゆこう

「涼し」(すずし)が夏の季語 二句
<一> 昔の鉄の構築物は溶接技術が未熟で
部材の接続にはリベットという鉄の鋲を用いていた
リベットの施工は機関銃の発射音のようで
けたたましいものだった(工事の騒音公害の元祖)
古い架構を仔細に眺めると頭の丸い鋲(びゃう)が
均等に並んでいて 懐かしくも美しい
風が吹きぬける鉄橋の涼しさと鋲のリズムの涼しさ

<二> 禅堂のつくりは余分なものが一切なく 清々しい空間
大きな屋根に覆われて風を通し じつに涼し気
床は大抵 尺角(30センチ角)の黒い敷き瓦
壁から斜め45度に振って敷くのが四半敷(しはんじき)
わが庵ではテラカッタの四半敷と洒落ている

暑い夏に「暑い暑い」と嘆かず「涼しさ」を見出すところに
俳句や季語の知恵のエッセンスをうかがうことができる

人生が辛く厳しいのは当たり前 だからそれは嘆かず
微笑みをもってそっと受け止める 
それが芭蕉の「かるみ」という境地
<長谷川櫂「奥の細道」をよむ(ちくま新書)>

「西日」(にしび)が夏の季語 大西日(おほにしび)
大阪湾景は西日を受けたとき ふと 異国のように見えることがある
カスバ(casbah)はアラビア語で城塞のこと
オスマン帝国が16世紀にアジアに作った城塞
特に指定しなければアルジェリアのカスバを指す
カスバといえば「カスバの女」がすぐ浮ぶ
1967年(昭和42年)の大ヒット曲
大高ひさお作詞 久我山明作曲
いろんな歌手が唄っているが 私は「ちあきなおみ」の歌唱が好きだ
ハーフの「緑川アコ」はちょっと大袈裟な歌唱
二人とも私とほぼ同世代の歌手
少し歳下になるが「藤圭子」の歌唱もすて難い
アメリカで活躍する宇多田ヒカルの母上

「風鈴」(ふうりん)が夏の季語
涼やかな音をたてている風鈴の下に
旧式の顕微鏡が主(あるじ)のように座っている図
旧式の顕微鏡のような主というべきか

「夏のれん」(なつ暖簾)が夏の季語
夏の間用いる暖簾のこと 
麻や木綿などで作られた透き通った涼しげなものが多い
生成りの感じが好まれてきた
この句 麻の生成りの上に薄墨で「う」と一字認められた
きっと鰻屋の夏のれんだろうか 余白が涼し気

「閑古鳥」(かんこどり)が夏の季語
郭公(くわくこう)のこと ホトトギス科の鳥
時鳥(ほととぎす)によく似ている
閑古鳥が鳴くとは 客がいない暇な様子をいう
この句は所在なげに空き缶を蹴っているところ
カン コンとカ行の響く言葉遊び
閑古鳥の句には
<憂きわれをさびしがらせよ閑古鳥>芭蕉
<あるけばかつこういそげばかつこう>山頭火

「蟻」(あり)が夏の季語
作者は透明のガラス箱に土を入れて蟻を放すだけ
微妙な巣穴は蟻の働きにおまかせ
協作とはいえ ほとんどが蟻の制作
いま流行りのコラボレ−ション(協同制作)というには忍びない

「夕焼」(ゆふやけ)が夏の季語
どの季節にも夕焼はあるが
特に真っ赤な夕焼が代表として夏の季語とされている
一航海終えたコンテナに赫々(かくかく)とした錆

「芙蓉」(ふよう)が秋の季語  酔芙蓉(すいふよう)
芙蓉は夏の終わりから秋にかけて咲く
原産地の中国では「蓮の花」(はちす)のことを指す
酔芙蓉はその一種
朝のうちは純白で 昼には淡紅色 夕方には紅色
と色が変るところから 酔っ払いの芙蓉と命名された
不発弾は年に何度か現れニュ−スが流れる
その多くは第二次世界大戦の空襲で落とされた爆弾
その度にものものしい警戒の中 爆弾処理班が出動
信管(しんかん)がある限り 爆発する可能性がある
この句<・・・信管>で切れ 不発弾と酔芙蓉とのとり合わせの句
ところで この不発弾は私 どんな状況にあっても信管だけは失いたくない
俳句という信管をこの句に込めた

「終戦日」(しうせんび)が秋の季語
八月十五日 終戦記念日(あくまでも敗戦日とはいわない日本)
全国戦没者追悼式が天皇陛下ご臨席で挙行
それこそ夏の真っ盛りの様相だが
八月七日に立秋を過ぎているので
歳時記の上では秋の季語
群青(ぐんじやう)はこの時期の深い空と海の色
広辞苑によると岩群青色の略
青金石(Lazurite)という鉱物から作る
ちなみに 谷村新司作詞作曲唄の「群青」は冬の情景
(255句目)


井上 明関連サイトリンク
暮らし方研究会
http://www.kurashikata.gr.jp

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